響樹の趣味

 彼女の頭の中には、緑の髪をした男と響樹が口づけをする姿が浮かんでいた。


「響樹君にそんな、趣味があったなんて・・・・・・信じられない」軽蔑から哀れみに変化した。


「いやいやいやいや、ちょっと待って! 俺はそんな趣味は無いって!」響樹は必死の素振りで否定した。


 勇希の突き刺さるような視線は変わらない。


「ご安心ください。 私は貴方達とは違い、人工的に超人の力を手に入れたものです。 その方とちぎりを交わしたおぼえはございません」男は、響樹を一瞥いちべつした。その刹那せつな、男の目前に刃が向けられた。


「貴様、一体何者だ」静香が低い声で聞く。その手には日本刀が握られていた。


「怖いですね。・・・・・・私の名前は、緑川みどりかわ 京之助きょうのすけです。以後、お見知りおきをお願いいたします」緑川は、静香の日本刀の刃を指で摘むと、軽く弾き飛ばした。 彼女の体は日本刀ごと後方に飛ばされた。

 その体を響樹が受け止めた。


「大丈夫?」響樹が静香に声を掛ける。 静香が珍しく頬を染めた。

「離せ! 気安く触るな」静香は突然慌てたように響樹の腕を振り払った。その仕草は恥らう乙女のようであった。


「YOUは、まさか・・・・・・人間と違うの?」シンディが緑川を見た。

「さあ、どうでしょう。 ご想像にお任せします」緑川が爽やかな笑顔を見せた。それは、まるで女子高生達が心酔しんすいするアイドルのようであった。

「貴様、私達を愚弄する気か!」静香は歯を食いしばり、日本刀で緑川を横一文字に切りつけた。緑川の体が真っ二つに裂けたと思った瞬間、彼の姿が消えていた。

「えっ!?」響樹は目を疑った。


 緑川がどのように消えたのか見えなかった。


「短気な方ですね。 本日はご挨拶に伺がっただけです。・・・・・・次は、その男性をいただきますので、ヨロシク」橋の下に緑川の声だけが反響した。


 緑川は完全に姿を消したようであった。

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