クレナイ
『クレナイ』は、部活動が継続中である事を確認して、空手部の控え室に飛び込んだ。
響樹と、勇希の私物を両脇に抱えると、誰にも見つからないように退出する。
以前よりこの控え室は、防犯上問題があり改善の必要があると話し合いをしていたが、今回はそのお蔭で難なく自分達の荷物を回収することに成功した。
「「どこに行こうか・・・・・・」」クレナイは人目につかぬ様に民家の屋根を駆け抜けていく。
「「とりあえず、俺の家に行きましょう」」響樹の思考が呟く。
「「そうね、それしか方法は無さそうね」」クレナイは呟く。 彼女は独り言のように会話を繰り返す、別の人間が見たら滑稽な感じであったであろう。
クレナイは、響樹のマンションの前に降り立った。
響樹の鞄に手を入れて鍵を取り出す。エントランスでオートロックを開錠しようとすると、中から私服の男子生徒が出てきた。彼は怪訝そうな表情でクレナイの姿を見た。 真っ赤な髪にアニメのコスプレのような格好。なにより、このマンションは男子学生専用の単身向けである。 基本的に女性の出入りは禁じられていた。
「「えへへ、お、弟の荷物を届けにきたの・・・・・・へへへへ」」クレナイはペコリと頭を下げると一目散に響樹の部屋に駆け込んだ。
閉じた扉にもたれながらクレナイは、ため息をついた。
「「もう、あの静香って娘、無責任よね!」」クレナイは静香に元に戻る方法を確認したが、教えられるものでは無いとの返答であった。
「自然に元に戻るのを待つのだな」と言い残して彼女は姿を消した。残されたクレナイは呆然としていたが、部活動が終了するまでに自分達の荷物を回収しなければと行動に移した。
静香から聞いた話は衝撃的な内容であり、とても受け入れることの出来る内容ではなかったが、今の現状を思うと納得する以外無かった。
「「あの・・・・・・」」
「「はい・・・・・なんですか?」」
「「ト、トイレ・・・・・・」」
「「えっ!?」」クレナイは一連のやり取りをひとり言で話した。 体は共有していたのだが、響樹は尿意には気がつかなかった。
「「ど、どうすれば・・・・・・」」響樹の思考が混乱する。
「「なにか、目隠し・・・・・・そうだ、タオル」」勇希は鞄の中のタオルを取り出してクレナイの目を覆った。
「「え・・・・・・?」」
「「私が、・・・・・・・するから、絶対に見ないでね!!」」勇希はクレナイの声で、念を押した。
「「はい・・・・・・」」
クレナイは目隠しをして部屋のあちらこちらにぶつかりながら、トイレの中に駆け込んだ。
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