シャワー借りてもいい?

 勇希は道着の上着を羽織はおって胸の辺りを隠している。


 彼女は途中で目を覚ました響樹を彼の家まで送っていった。 正直、男が女を送るのが普通でしょと腹の中では思ったが口に出すのは止めた。


 改めて、前を歩く響樹の背中を確認したが、やはり傷跡を見当たらなかった。

 彼の住まいは、小規模しょうきぼの学生向けマンションであった。


「部屋に上がりますか?」響樹は少し申し分けそうな感じで聞いた。


「え、貴方の部屋!? ・・・・・・ご、ご両親は・・・・・・?」勇希は何故か慌てふためいた様子であった。学生マンションに親が居る筈も無く、我ながら馬鹿な質問をしたものだと恥ずかしくなった。


「ああ、ここは学生向けのマンションなので、俺は一人暮らしですよ、たいしたもてなしは出来ませんけど」


「ひ、一人暮らし・・・・・・ それじゃ・・・・・・二人だけ・・・・・・で、でも、そんなに言うなら、・・・・・・上がってあげても良いわよ」何故か勇希の声が上ずっていた。体をモジモジさせている。


 響樹は微笑みながら、オートロックを開錠して部屋の中に勇希を招き入れた。


「その辺に座ってください。 それと・・・・・・もし、良かったら俺のシャツを貸しますんで、どうぞ」言いながら、響樹は黒いTシャツを差し出した。


「有難う。 お言葉に甘えてお借りするわ」受け取りながら、自分の体から汗の匂いがしているのかと危惧きぐした。


「脱衣所はそこです」響樹は、浴室の方向を指差した。


「ええ・・・・・・」勇希はシャツを手に持つと、浴室の脱衣所に入り扉を閉めた。 羽織っていた道着の上着を脱ぎ、破れたブラウスに手を掛けたところで、自らの汗の匂いに手を止めた。

 密室の中で下級生とはいえ男性と二人・・・・・・勇希は、一度閉めた扉を少し開けた。隙間から顔だけチョコンと出して呟く。


「ねえ、不動君、・・・・・・悪いけどついでにシャワー借りてもいい?」勇希は少し顔を赤らめて恥ずかしそうに懇願した。


「え、あ、い・・・・・・いいですよ、バスタオルがそこにあるので、もし良かったら使ってください」響樹は突然の申し出に驚きながらも承諾した。


「有難う!」言うと勇希は扉の鍵を閉めて制服を脱ぎシャワーを浴びた。

 響樹の部屋にシャワーの音が聞こえる。 ぎこちない動きで彼はコーヒーを入れた。それは、ロボットダンスのような動きであった。


 浴室が気になり彼は何度も視線を送るが煩悩を払うように何度も頭を振った。

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