お姫様だっこ

 その袋を見てもまさか女子高生が日本刃を所持しているとは誰も思わないであろう。


「え、今の……、何……?」勇希は少女が発する言葉の意味を理解出来なかった。


「一応忠告しておこう。 その男に関わると、お前の人生は破滅に向かう。・・・・・・・普通の乙女にはこの男は扱えない」涼しい目をして少女は勇希を見下ろす。


「どういうことなの?!」勇希には、少女の言葉の意味を小指の先ほども理解出来ないでいる。


「その男を好きになってはいけないって事だ」少女は吐き捨てるように呟いた。


「・・・・・・・」勇希は返す言葉が見つからなかった。


「う、う・・・・・・ん」響樹が苦しそうにうなされている。


「不動君!・・・・・・どうして、こんな大騒ぎになっているのに誰も来ないの・・・・・・・」勇希は周りを見回した。 先ほどの戦闘でかなりの音が響いたはずなのに、誰も表に出てこない。


「結界だ……。 さっきの女の得意技。 ある一定の場所に行きたくないと、人々に思わせるように術式を使った。 あいつらのやりそうな事だ」少女は地団駄を踏む。


「そ、そう・・・・・・・」やはり相変わらず勇希には理解が及ばない。


「それでは私は・・・・・・失礼する」そう告げると少女は姿を消した。


「ちょ、ちょっと、待って……!」勇希にとって、この状況で置いていかれるのは心元無かった。


「ああ、紅・・・・・・先輩?」響樹は気がついたよようでゆっくりと瞳を見開く。その目の前には切り裂かれ、見事に露出した勇希の胸の谷間が広がっていた。

 響樹の体中の血液が頭部に集中する。


「大丈夫! 不動君?!」勇希が心配そうに見つめる・・・・・・が、響樹は鼻血を垂らしながら再び失神したようであった。


「ちょ、ちょっと・・・・・・・・あれ?」勇希は、響樹の背中を確認して驚く。

 先ほどの戦いで勇希の体を庇い、彼の背中は傷を負っていたはずであった。 しかし、勇希が確認出来る範囲では、響樹の服は切り裂かれた後が残っているのだが背中の傷は綺麗に消えていた。


「何が起きているの・・・・・・・」勇希は響樹の体を抱き上げた。


「・・・・・・」彼は気絶したまま返答しない。

 響樹の顔を見て、少し可愛いと思いながらも、先ほどの青い少女との口づけを思い出し、なんだかムカついてきた。


 昔から、お姫様抱っこを夢見ていた彼女であったが、自分が抱くほうになるとは思ってもみなかった。


「ちょっと、・・・・・・男と女が逆でしょ! それに・・・・・・・貴方の家はどこなのよ?」勇希は重い体を抱えながら途方に暮れる。


 何故か響樹は幸せそうな顔をして眠っていた。

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