第24話 金色トカゲ

「キュアァッ」

「…………」


 鳴き声をあげる金色トカゲを、チロは無言で見つめていた。


 その頭にあるのは、「こいつ、俺のデザートを食いやがってっ!」でも「爬虫類って、よく見るとつぶらな瞳をしているよな」でもない。



 肉!



 その一字である。


「キシャァ」


 そんなチロの欲望を察知したのか、金色トカゲが警戒するような鳴き声を上げた。


 しかしどういう訳か、逃げだそうとする気配は見られない。


 そんなら捕まえてやろうと、チロが手を伸ばしたその瞬間────



 

 キランッ




 と、金色トカゲの両目が怪しげな光を放った。






 ……………………






 ………………






 …………






 ……が、何も起こらなかった。


「?」

「?」


 チロと金色トカゲは、見つめ合ったまま互いに首をかしげる。


 

 キランッ



 もう一度光る。



「…………」

「…………」



 やはり、何も起こらない。


 ガシッ

 

「キシャァ! キシャァ!」 


 一瞬警戒したチロだったが、特に害は無いようだと判断し、金色トカゲを鷲掴わしづかみにした。


 鳴き声を上げながら金色トカゲが暴れるが、体長15センチほどで力も強くはなく、チロの貧弱な握力でも十分に拘束することができた。

 

 チロはもう片方の手でナイフを持ち、すぐに止めを刺そうとするが…………


「キュァァ……キュァァ……」

「くっ」


 急に哀れな声を出し、潤んだ瞳で見つめてきた金色トカゲに、その決意が鈍る。


「キュ……キュァァ……キュァァ……」

「うぅ……っ」


 こんなあからさまな命乞いをされて、怯まない人間がいるだろうか。

 

 チロは生まれ変わってゴブリンになったが、だからといって人間性まで消えている訳ではないのだ。


 肉は、食べたい。


 だが、虫でタンパク質を補給できている今、肉は食べなくても生きていけるのが現状である。


 肉を食べたいというのは、あくまでもチロの嗜好しこうに過ぎないのだ。


 相手にも戦う意思があるなら話は別だが、必死に命乞いをする小さな動物生命いのちを自分の欲求のためだけに奪うことは、チロにはできなかった。


「はぁ……っ」


 力なくため息を吐くと、チロは金色トカゲを開放した。


「…………行けよ、俺の気が変わらないうちに」


 そして『一度言ってみたかった台詞セリフシリーズ』の一つをクールに囁くと、自分を見上げてくる金色トカゲに背を向け、食べ損ねたシトラ草をみ始めるのだった。

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