第10話 肉との遭遇

 スライム事件から、数日が経過していた。


 あの衝撃的な味覚テロ以来、チロは口に入れるものに対して以前より慎重になっている。


『毒耐性』だけでは、防ぐことのできないものがあると知ったのだ。


 しかしだからこそ、チロは肉に飢えていた。


 あの恐怖の味を、記憶から消し去ることは難しいだろう。

 だが、遠ざけることならできる。


 その為には、味覚を上書きするために、うまいものを食う必要があった。


「肉……肉が食いたい……」


 虚ろな瞳で、チロは陶製ナイフを研いでいた。


 他にやることもないので、武器を量産しているのである。


 すでに作成した槍の数は十本を超えているが、スライムを倒す以外に役立ったことは一度もない。


 というか、この世界に転生してからすでに10日以上経過しているにも関わらず、いまだ出会った生き物といえばスライムだけだった。

 

「大丈夫なんだろうな、この世界。まさか俺以外にはスライムしかいない、なんてことないだろうな……

 いや……いやいや、鳥の声とか聞こえるし、大丈夫だ、大丈夫。

 大丈夫…………だよな?」

 

 不安だった。

 ものすごく不安だった。


 鳥などいくらいたところで、弓も鉄砲もないチロには手の出しようがない。


 地を這う動物がいない限り、チロは肉にはありつけないのだ。


 真剣に生きてみようと決意したこの新たなせいであるが、肉も食えないような世界などゴメンである。


「頼むから、今日こそ肉に……違った、動物に合わせてくれよ。こうなったらもう、ネズミでもなんでもいいから……」


 祈るように呟き、チロはふらりと立ち上がると、槍を片手に歩きだした。








 ────そして、一時間後。








 目を血走らせながら動物を探し回るチロの耳に、ガサリ、と明らかに風の音ではない、茂みの揺れるような音が聞こえてきた。


 その音の発生源に視線を移し、とうとうチロは発見した。


「に、肉だ……っ!」


 ウサギである。


 草深い茂みの隙間から、ウサギがひょっこりと顔を出し、チロのことをじっと見つめていたのだ。


 ただ、そのウサギにはチロの知る普通のウサギとは違う部分があった。


 つぶらな瞳の上にあるひたいからは────







 ────鋭く尖った、一本の角が生えていたのだ。

 

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