89日目

 朝から雨が降っている。

 本当に朝かと思う程に空を暗雲で覆い隠して。


「いってきます」

 アタシの声に反応して

「お姉ちゃん、お弁当持ったかい? 」

 と、似合わないエプロン姿のおとうさん。


「大丈夫、じゃあおとうさんも会社に遅れないようにね」

 そう言うと、おとうさんは歳よりも随分幼い笑顔を見せる。


 お母さんは、昨夜からずっと病院に寝泊まりして弟の傍に居る。



 正直、おかあさんの体調も心配だけど。

 おとうさんから「お母さんの好きにさせてあげてほしい」と頼まれた。


 おかあさんは弟をガラス越しに見つめると

「ごめんなさい」と呟いていた。


 それが、何を意味するのか。

 昨晩、アタシはずっと考えていた。


 おかあさんは何に謝ったのだろう。


 気付くと、雨はあがっていた。


 この雨を最後に梅雨が夏に季節を移り行くように。

 時間は無情に進むのみなのに。


――異世界転生まで

  あと11日――

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