星間戦争末期に大規模遊園地を作ろうとした軌道会社の真面目な社長と不穏な技師のはなし。

江戸川ばた散歩

プロローグ

 ふと夜半に目が覚めた。


 風が吹いている、と私は思った。ゆっくりと目を開けると、衛星の光が目に飛び込む。半分閉じたまぶたの裏をくすぐる。煩わしい。


 だがそんなはずは無い。私は慌てて上体を起こす。窓は閉めたはずだ。カーテンも閉めたはずだ。衛星光が差し込むはずが無い。

 壁一面に広がる大きな窓に視線をやる。…光が、漏れている。カーテンが、揺れている。


 そして、影が。


 誰かが、椅子に掛けている。

 何ということだ。警備員はどうした。犬は吠えなかったのか?

 この屋敷を、この私の所有と知ってのことか?

 私は寝台から立ち上がり、ゆっくりと椅子にふんぞり返る様にして座っている誰かの方へと足を踏み出した。

 刺客なのかもしれない。だが刺客だとしても、今すぐに私を殺すつもりは無いだろう。この部屋に入り込めるのなら、とうの昔に私は殺されているはずだ。


「誰、だ?」


 私は座る誰かに向かって声を放つ。窓の側に置かれた、丸いテーブルの上に足を投げだし、その誰かは窓の方を向いていた。

 衛星の冷たい、透明な光が、侵入者のシルエットを描きだす。ようやくこの暗さに慣れた目は、それをも次第に判別し始めた。

 男、だ。そして長い髪を後ろで束ねている。


「誰だ」


 私は重ねて問いかけた。男はその時ようやくテーブルから足を下ろして、くるりと椅子を回した。


「久しぶりだね」


 私の正面を向いた男は、低い声でそう言った。

 私のよく知っている声だった。

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