第二章「初めの町」1
クラスメイト達を置き去りに山を下り、レイカから貰った地図に載っていた一番近くの町に到着した。無言で歩きづづけるユリアに話しかけることもできずに、終始無言で後ろ髪を引かれていたトウタではあったが、町に入るころには『近くの町でみんなを待ち、合流するのが一番現実的で正解の選択なのだ』と、自分で自分の説得が完了していた。
道は舗装されていないが綺麗に均され、建物は土や木が基本だが頑丈に造られている。行きかう人々には活気があり、店先にりんごを並べた商店の呼び込みが勇ましい。文明のレベルは、古代ローマから中世ヨーロッパと言った所。人々が着ている服も、現代とは別の意義や機能を求めたものだった。
「人が多いね……殆どが普通の恰好?してる」
「鎧を着てる人は少ないわね。軽い胸当て位なら、見かけるけど」
「町には魔物は出ないとか…危険は少ないってことかな?それか、ここは市場みたいだから…冒険者じゃなくて…普通に町に住んでいる人が多いとか」
「露店で売っているのは生鮮食品が多いようだし、たしかにここは一般人の生活圏で、冒険者がいるのはここじゃないのかも。でも町は城壁にも囲われていなかったし、町事態安全な可能性も捨てきれないわ」
口寂しさに意見を出し合いながら、ユリアは広い大通りの観察を続ける。
人々の間で交わされているのは日本語に思えたが、店に書かれている文字は、日本語どころか、全く見たことも無いモノだ。
「もしかしたら町の人々は全然別の言語を喋っているけど、自動翻訳的に日本語に聞こえるのかも」
「え…そんなことありえるの?」
「スキルのウインドウとかデジタルな地図とかが目の前に表示できるんだから、それくらいの昨日はついててもおかしくないでしょ。安いスマホにだって、自動翻訳アプリくらい入ってるわ」
「それはそうかもしれないけど…それなら文字も翻訳して欲しいかも…」
「音声に比べて、画像の翻訳処理の方が難しいじゃない?」
ユリアは眼鏡を取り出して装着し、看板の文字を読み上げた。
「あそこの店は『お風呂屋さん』ですって。眼鏡を掛ければ読めるわね」
「僕たちの頭は…安いスマホ以下って事かな…」
「外付けで済むことぐらい、標準装備で欲しいわよね」
ユリアはさっさと眼鏡を外し、すぐにしまってしまう。
「賢者の眼鏡…だっけ?便利そうだし…ずっと掛けておけばいいんじゃ…?」
「いやよ。私メガネに合わない」
「似合わないって……それって今大事なの?」
「大事に決まっているわよ。知らないの?」
知らない。などと言える筈もなく、トウタは曖昧に頷いた。
「そこで似合うのに!とか言っとけば、モテるわよ」
「がんばってみます…」
へへへ、と、照れ笑いをこぼす。
「と…ところでさっきのお風呂屋さんって言うのは……」
「普通のお風呂屋さんよ。そういうスケベ心をしまっとかないと、モテないわよー」
「が…がんばります…」
何とも気の抜ける、まるで一昨日の日常で当たり前に行われていたやり取り。いや、トウタにしてみれば、それは……
「とにかく、どこに向かいましょうか?」
「そういう、人を試す言い方って……好きじゃないよ…お金と情報が必要なんでしょ?」
「悪かったわよ。『質屋か武器屋を探しましょうかい、旦那?』。言い直したから良いでしょ?」
「なんで下男風?」
小気味よいやり取りをしながらトウタとユリアは大通りを外れ、武器を換金できる場所を探し始めた。
「……」
「どうかしたの…?ユリアちゃん」
「トウタくんが何でもないと思ってるなら、なんでもないわよ」
ユリアはにわかに緊張感を高め、静かに指輪をはめ直した。
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