ネオンサイン
川沿いの道を歩く。
何故か、潮の香りがした。
海はまだまだ遠い。
連れは川に向かって、銀塩カメラを構える。
「フラッシュは焚かないのですか」
「そうですね。夜景を取りたいので」
「三脚は使わないのですか」
「よくご存じで」
「欄干に固定しているんですよ」
「なるほど」
「お仕事は何をされているんですか」
「簡単な仕分けですよ」
僕はじっと夜景を眺めている。
「それじゃ、シャワーは浴びないんですね」
「浴びませんけど、シャワーって」
「シャワーといっても、ホースで水をかけられるだけなんですがね」
「どうして知ってるのですか」
「私も、あそこで働いていましたから」
「本当ですか」
「本当です。労働者を撮りたくて」
「見つかって、即クビでしたが」
「そうなんですか」
「それより、シャワーを浴びるような仕事があるんですか」
「あそこは工場ですから」
「油まみれになって、機械を組み立てているんです」
男は振り返ってにっこり笑った。
そして、僕に指先の黒くなった手を見せる。
「いまだに落ちません」
「水をかけたぐらいじゃ落ちないんですよ」
「どうして僕は、あの仕事をしてるんでしょう」
「さあ、それは私にはわかりません」
「すいません。そうですね」
「謝らないでください」
男は、欄干から銀塩カメラを外した。
「お腹すきませんか。何か食べに行きましょう」
「ご馳走します」
思わず、すみませんと言いかける。
「仕事は僕が選んだそうです」
「そう言われましたね」
男が僕を見て微笑んだ。
男は車道を渡って向こう側へ。
僕も男の後に続いた。
車を避けながら、どうにかたどり着く。
「信号は渡らないんですか」
「信号は信用できないんです」
「実際はドライバーですが」
「気をつけて下さいね、この時間は無灯火の車も多いですから」
そう言って、男はネオンサインの店に入っていく。
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