第77話 ほう、こうなりましたか。

 アイス達が暢気に王都から王宮に戻っている頃、王宮では騒ぎになっていた。国王や宰相を始めとした国の最高幹部が必死になってこの国にとどめようとしていた災厄以上の存在ともいえる人間達がこの国から出て行くとアンジェリーナを通じて国王に伝えられたからだ。幸いにも一度は王宮に戻ってきてくれるということも書かれていたため、王宮内では対処に追われていた。



 王宮内では騒ぎの内容が広がりつつあり、内容を知った王宮貴族が暴走しつつあった。そんなことを知るよしもないアイス達は通常通りに王宮に入ろうとすると、門番達に止められた上に両手を拘束された。



「ありゃ、これは一体どういうことで?」



「すまん、アイス殿。第2王子派の貴族にアイス殿が来たら拘束するよう言われたのだ。我々ではそういった命令に逆らうことができぬのだ、許してくれ。」



「まあ、立場上致し方ないですよね。わかりました。あなたたちには刃向かいませんので。」



 彼らもダブルスタンダードで大変だよな。彼らに対しては大人しくしていましょうかね、ええ、彼らに対してはね。



 このまま門番さん達から王宮の守衛に引き渡され、そのまま拘束されたまま進んだ。



「アイス殿、済まんな。私達にも生活があるのでな。」



 彼らも申し訳なさそうにしながらも職務を遂行していた。普通なら手荒く引っ張られていくのだろうが、彼らは形こそ拘束しているようにしているが、その力は強くなかった。無抵抗のまま牢に入れられた。



「アイス殿、このような扱いをして申し訳ない。できれば大人しくしてくれるとありがたい。」



「まあ、のんびりさせてもらいますよ。」



 うーん、あのドノバンという取り巻きがそこまでの地位にいるとは思えないのだが、この国はどうなっているのだろうか。一応、自由に過ごせるお墨付きはもらっているのだが、それを守れもしないお馬鹿さんがはびこっているのか、はたまた国王自ら手の平を返したのか。まあ、考えていても仕方がない。どうせすることもないし、幸いにもマーブル達は一緒にいる。のんびりモフモフを堪能しますか。しかし、流石は牢獄、汚い。モフモフを堪能する前にこの汚い状況をどうにかしますか、というわけで、ライム出番です。



 ライムは皆まで言うなと言わんばかりに飛び出してきて周りを綺麗にしていき、私達のいる空間はもの凄く綺麗になった。綺麗にし終わるとこちらに飛びついてきたので、プニプニを堪能させてもらった。



 この後マーブル達とモフモフしたりしていると、牢番が偉そうに怒鳴りつけてきた。



「おい、お前達! 囚人らしく大人しくしていろ!! 俺の機嫌次第でお前らをどうにでもできるのだぞ!!」



 無視してモフモフを続ける。牢番は更に怒って牢を蹴りつけてきた。鬱陶しいので蹴ったポーズのままで両足を凍らせる。間抜けなポーズで固定されて焦った牢番が何やら言っていた。



「おいっ、これはどうなっているんだ!! 早くこの状態を解け!!」



 面倒なのでそのままにしておいてモフモフを堪能している。もちろん、牢番はそのままの体勢のままだ。本当はあまりにも五月蠅いから、全身を凍らせてもよかったのだけど、牢番程度で偉そうにしている人間がそうしてしまうと死んでしまうかもしれなかったので、この程度で放っておいた。一生このままの体勢でいさせるのもアリかもしれない。



 牢番があまりにも騒がしかったので、他の牢番らしき人間が何人かこちらにやってきていた。



「おい、何を騒いでいるんだ!!」



 牢番の長らしき人物がこちらに聞いてきた。



「あっ、隊長! こ、こいつが俺の両足を凍らせやがりまして。」



「お前、この者に何かしようとしたな?」



「いえ、俺は何もしておりません!!」



「その右足をあげて、牢を蹴っている状態で凍らされているではないか!!」



「あ、いえ、それは、こいつが生意気にも俺に逆らって、、、。」



「この状態でどうやって逆らうと言うんだ? お前、以前にも牢にいた者に暴力を振るっていたな。次も何かあったら容赦しないと言っておいたはずだが、忘れてしまったのか? ん?」



「・・・・・。」



 牢を蹴りつけていた牢番は何も言えなくなった。



「まあ、いい。お前は一生その状態でいろ。恐らく彼がその気にならなければその氷は溶けないはずだ。アイスさん、済まない。あんたは何も悪いことをしていないのにこんなところに連れられた上に、こいつが調子に乗ってやらかそうとしたみたいだな。」



「いや、彼が自分の気分で私をどうにでもできるとおっしゃっていたので、身の程を教えて上げたまでですよ。私がどのくらいここに閉じ込められるのかわかりませんが、私がここを出るまでは少なくともこの状態でいてもらうつもりです。」



「それは構わない。ただ、アイスさん、あんたがどれだけここに閉じ込められるのかは俺でもわからないが、それなりの便宜は図るつもりだ。何か困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ。」



「いえ、別段困っていることはありませんから、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます。」



 ほぼ棒読み状態で答える。正直あまり期待はしていないから。明日もここに閉じ込められるようであれば転送魔法でさっさと脱出してしまいましょうかね。別にこれ以上この国にいる必要もないし。



 しばらくのんびりしていると、牢番の一人が食事を持ってきた。



「夕飯だ。15分したら回収に来るからな。」



「いえ、結構です。何が入っているのかわかりませんし、すぐさま回収してください。おたくらで食べてもかまいませんよ。それよりも、ここに変な格好で突っ立っているやつに食べさせて上げては?」



 そう言うと、牢番は食事を引っ込めて去って行った。さて、私達も食事にしますかね。今日はどうしようかと考えていたが、考えてみたらミノタウロスの肉かオークの肉しか入っていないことに気付いた。あとはオーガジャーキーか。ジャーキーはアンジェリカさん達に渡す分だからオークにしようか。調理器具は、と、お、あった。空間収納からオーク肉と調理器具を出して調理を始める。間抜けな格好をして固まっている奴が何か喚いていたが、無視して調理を続ける。この牢は幸いにも小さい窓がいくつかあったため、マーブルに煙を外に出るように風魔法をかけてもらった。この牢の中で水を作り出すと汚い水しかでなそうなのでもちろんオークのステーキだ。



 慣れない場所で作ったので、いつもよりは出来はよくなかった感があるけど、それでもなかなかの味だった。流石はオーク肉。美味しく召し上がった後、ライムに綺麗にしてもらい調理器具をしまう。



 夕食が終わってマーブル達とごろごろしていたら、アンジェリカさん達が血相を変えてこちらに走ってきていた。



「アイスさん、何でこんなところに?」



「それはこちらが聞きたいですね。まあ、丁度良かったです。」



 そう言って、オーガジャーキーを入れていた袋をアンジェリカさんに渡す。



「アイスさん、こ、これは?」



「これは、ここに来る前に作っておいた、オーガジャーキーですよ。」



「オーガジャーキー?」



「ほら、昨日狩ったオーガがいるじゃないですか。そのオーガ肉を使って加工したものを差し上げる約束をしましたよね? その加工したものがこれです。最初は味がしないかもしれませんが、噛めば噛むほど味が出てきて美味しいですよ。後で皆さんと食べてくださいね。」



「ありがとうございます、って、今はそれどころじゃありませんわよ!! 何故アイスさんが牢屋にいるかですわ!」



「どうしても何も、王宮に戻ったらいきなりここに連れてこられたのですから。」



「お父様達からもらったお墨付きがありましたわよね? 何でそれを門番達に見せなかったのです?」



「いや、見せる間もなく拘束されましたからねえ。いやあ、この国は素晴らしいですね。貴族にとっては。時間に遅れても平気だわ、それを指摘したらこのように牢に入れられるわで、恐らくお墨付きを見せてもどうせ偽物だと言って話にならないと思いますよ。」



「そ、それで、この国を出るというのは本当ですの?」



「ええ、本当です。マーブル達も賛成してくれましたし、冒険者ギルドには呆れましたし、この国に居る理由がないので、そう考えていたのですが、ここに連行されることでその判断が間違っていなかったと確信していますよ。国王陛下にライムの分裂体をお渡しできましたし、オーガ肉の加工品もこうやってお渡しできたので、心置きなくここを去ることができるというものです。あ、明日もこんな状態でしたら力尽くで出ますのでその辺をしっかり伝えておいてください。」



 何か、アンジェリカさんが体を震わせていた。あ、よく見たらセイラさんも同じ感じだ。ルカさんは表情が無くなっていたな、ルカさんって無口だけど結構表情豊かだなんだけど、そのルカさんが無表情になるって珍しいな。まあ、私には関係ないか。



 外を見ると完全に真っ暗になっていたので、寝ることにした。牢屋は暗くないのか、と思うかもしれないが実際は暗い。でも、こちらにはマーブルの火魔法があるのだ。弱い火魔法を明かりとして灯していたので、この部屋だけは明るかった、ということ。地べたで寝るのは厳しいが、一応敷物はあった。もちろん汚かったので、ライムに頼んで綺麗にしてもらった状態だが、元々ショボいのもあって地べたの痛みは和らぐ程度のものでしかなかったので、念のために用意していたワイルドボアの毛皮があったので、それを敷いて眠った。



 さて、これからどうなることやら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る