第70話 ほう、これが魔族、、、、って名前長いから、お前パスタな。
通路の上で座って食事という訳のわからない休息を摂った後、先に進んでいくと、いつも通りの広間に到着したが、何か様子がおかしい。ここのダンジョンの部屋はどれも迷宮の壁が広い間取りになった感じでしか無いのに、ここは無駄に広い上に屋敷らしきものが存在していた。屋敷には1体の魔物らしきものが存在していたがどうにも戦意が感じられない。しかし、他のメンバーの反応は違っていた。
「な、何ですのあの魔力。こんな魔力を持った存在今まで見たことありませんわ。」
「うん、だけどこれだけの魔力を持っているのに何も圧迫感がない。」
「ある意味怖い。」
ほう、もの凄い魔力をもっているのか。私には全く感じられなかった。魔力0は伊達じゃないな(泣)。マーブル達も最初は警戒していたが、少ししたら警戒を解いていた。何か訳がわからないから鑑定でもしておきますか。アマさんよろ。
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『ディアブロ』・・・おろ? こやつ魔王軍の四天王の一人じゃ。何でこんなところにおるのかのう? 魔王軍と聞いて驚いたじゃろうが、安心せい。今の魔王軍は特にこちらに攻め入るとか全く無いからのう。どちらかと言えば、たくさんある国の一つと考えた方がいいじゃろう。国によっては魔族の国と通商を結んでいる国もあるぞい。魔族の国は案外農産物の質がよくての、魔族国産の野菜は高値で取引されておるぞい。
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あれま、魔族の大幹部ですか。しかも今は人と争っていないと。では、今いる勇者って何と戦っているんでしょうかね。会ったことないからわかりませんがね。
「マーブルジェミニ通信からの報告ですが、あの魔物は魔王軍の四天王みたいです。」
「え? 魔王軍の四天王? そんな大物がこんなところにいるんですの?」
「魔王軍とはいえ、今は人とは争っていないけど、まさか、潜入工作?」
「まあ、その辺りは実際に話をしてみたらわかるでしょう。どうやら敵意は感じられませんし、とりあえず進んでみましょう。」
そういって、先を進んで、先程言った胡散臭い空間に足を踏み入れる。ディアブロと鑑定結果に出ていた魔族はそれに気づいたらしく、屋敷から出てきて話しかけてきた。
「おろ? 誰か来たと思ったら人間か。して、我に何用かな?」
「いや、ここってとあるダンジョンなんですが、なぜダンジョンに魔族がいるんですかね?」
「ダンジョン? 何を言っておる? ここは我の住まいじゃぞ。って、なんじゃここはーーーー!!」
「理解できました?」
「なるほど、どうしてこうなったかわからんが、確かにダンジョンだな。」
ディアブロという魔物は自分の屋敷がダンジョン内に移動していたことにかなり驚いていたが、すぐに気を取り直した。おお、復帰が早いですな。
「ところで、あなた様は何故ここにいらっしゃるのですか?」
「うむ、何故と言われても困るな。仕事をしておったら、お主達がここに来たから何事かと思って屋敷から出てきたらご覧の有様だ。むしろ我の方が聞きたいくらいだな。ところで、ダンジョンとお主達は言っておったが、ここはどこのダンジョンかな?」
「ここはタンヌ王国にあるダンジョンですわ。ここに出入りできるのはタンヌ王国の王族のみしか許されておりませんの。」
「そうか、って、タンヌ王国? 我が屋敷からここへは速くても半年はかかる距離だぞ。うーむ、どうしてこうなったやら。ところで、ここは王族のみしか入れないと言ったな、ということはお主達の誰かが王族ということじゃな。」
「ええ、わたくしがタンヌ王国第三王女、アンジェリーナ・デリカ・タンヌですわ。」
「おお、お主が戦姫のアンジェリカか。その名前は我が魔族領でも響き渡っておるぞ。」
「えっ? わたくしが戦姫のアンジェリカと何故?」
「これでも我は魔族の幹部の1人だからな、その位の情報はある。一応秘密ということであれば、どちらの名前でお呼びすれば良いかの?」
「では、アンジェリカとお呼び下さいませ。わたくしは王族である前に、一冒険者ですの。」
「そうか、っと、いかんいかん。折角名前を名乗られたのだ。こちらも名乗らずばなるまい。」
「えっ? ディアブロが名前じゃないので?」
「お主、鑑定持ちか。しかもかなりの戦闘能力があるな。まあ、我は戦闘能力が全く無いからどうでもいいか。ディアブロは種族名じゃ。我の名は、フィットチーネ・タリアテッレ・シェル・カール・ツイスト・ペンネ・マカロニ・スペルチーニ・パーミセリ・スパゲッティーニ・リゾーニ・ニョッキ・ルマコーニ・カヴァタッピ・フジッリ・ファルファッレじゃ。」
・・・長ぇーよ。しかも聞いたことのある名前だし、発音しづらい種類が多いじゃねーか。見ろ、戦姫の3人も唖然としてるじゃないか。
「長すぎるから、パスタで。」
「ちょっ、おまっ。た、確かに長い名前なのは認める。認めるが、どこをどうすればそんな名前になるのだ? 仮にも由緒正しき伝統ある名前なのだぞ。」
「いや、伝統があろうとなかろうと、長すぎるのでパスタで。ぶっちゃけ我が国のパスタという食べ物の種類だから、その名前。」
「む、むう、そうなのか。で、そのパスタとやらはどういった食べ物だ?」
「パスタというのは、小麦を粉にして卵と塩を混ぜてから形を整えてからゆでて完成する。で、形やら太さで名前が異なり、その種類の名前がパスタさん、あんたの名前がそれぞれその種類と同じなんだ。」
「一応聞いておくが、そのパスタとやらは美味い食べ物だろうな?」
「あ、わたくしもそれは気になりますわ。」
「うん、食べてみたい。」
「食べる。」
ありゃ、魔族だけでなくアンジェリカさん達も気になってしまったか。
「いや、材料ないですし、先程昼飯食べたところでしょう。」
「材料なら用意できるぞ。他にも不足のものがあったら遠慮なく言ってみろ、我も実際食べてみたいからな。」
周りから「食べさせろ」というオーラに囲まれてしまった。戦姫やパスタさんだけでなくマーブル達までもか。仕方ない、他ならぬマーブル達の頼みとあれば断るわけにもいくまい。
「はあ、わかりましたよ。作りますよ。」
周りから歓声が上がる。パスタさんに屋敷の中に案内してもらい、パスタの材料の他に必要なものを言っていく。驚いたのは、リクエストした素材が揃っていたことだった。特にトマトがあったのはビックリだ。
素材を提供してもらってばかりでは申し訳ないし、作っている間はみんな暇そうだから、肉はこちらで提供しましょうか。ここはワイルドボアとミノタウロスの肉で合い挽き肉にしますか。ということで、マーブルに出した肉を細かくしてもらった。
今回のパスタの種類はというと、ニョッキにした。というか、それしか作れない。器用さ5の私が麺なんて作れるわけがないだろう、いい加減にしろ。というわけで、お湯を沸かしてもらって、沸かしている間にニョッキの準備だ。種を作ってから思い思いの大きさで作ってもらう。これは戦姫の3人に頼んだ。3人とも意外と綺麗に形が整っていた。って、私が下手なだけかな。
ジェミニが手持ち無沙汰状態でかわいそうだったので、トマトの収穫をしてもらった。張り切りすぎて必要以上の量を収穫してしまったが、これはこれで使い途がある。トマトは一旦ニョッキをゆでたときに使ったお湯に放り込んでから湯むきして潰して塩胡椒で味を整えた。ソースに使わなかった残りはサイコロ状に切ってもらって具の一部にした。
そんなこんなで、ニョッキのトマトソース煮が完成した。みんなご満悦だった。ホッとした。
「ふむ、パスタというものは美味いものじゃな。わかった、今後我をパスタと呼ることを許そう。」
よし、許可がおりた。いや、許可がおりようとおりなかろうと、彼をパスタと呼ぶことは止めるつもりは毛頭ない。というか、彼は今後も私達と関わるつもりなのだろうか。
パスタを食べた後、パスタさんにどうしてここにたどり着いたのかを説明した。
「ふむ、なるほど。偶然にも我の屋敷とダンジョンがつながってしまった、ということだな。で、お主達は先を進むつもりであるか。それならここを通過してもかまわんが、一つ条件がある。」
うわ、条件を出してきたよ。まあ、条件次第ではこいつ消すか。
「お主アイスと言ったな、安心せい、条件と言っても大したものじゃない。条件というのはだな、我もお主達に同行することだ。」
「はい? パスタさんが私達に同行? それは何で? 第一、あんた大幹部でしょうに。」
「ふむ、先に今の我が国の現状を説明せねばならんな。お主達も理解している通り、我が国は魔王様が統治なさっておる。で、今の魔王様の関心は領土拡大ではなく領土拡充だ。そのために作物の品種改良などを積極的に行っておっての、そのせいか魔力は戦闘ではなく土壌開発などに使われておる。お主達も感じたと思うが、我には膨大な魔力があるが、実は戦闘力は皆無といってもよい。いわゆる我は四天王の中では最弱、といったところかの。」
どっかで聞いたことのある台詞が出てきて思わず笑いそうになったが、そこはこらえた。パスタさんの話は続いた。
「我はいろんな意味で特殊での、四天王とはいえ戦闘力がないこと、あとはディアブロという種族の中でも特殊な存在だ。というのも、ディアブロという種族は魔神の眷属で基本的には戦闘馬鹿の種族なのだが、我は今言ったように戦闘力がない。そんな我が四天王筆頭であるのはどういう意味かわかるか?」
「自信はないが、恐らく、その魔力や能力が土地開発向きで、今の魔族領はそれを最も必要としているが、パスタさんの他にはそういった内政向きの魔族がほとんどいない、というわけで、パスタさんだけがこき使われているというところかな?」
「お主、なかなか鋭いのう。ほぼ正解だ。少し違うのは、内政向きの魔族が増えつつあり、領内は安定してきておるため、我もそろそろ好き勝手に行動したい、というところだな。とはいえ、やりたいことといえば、どこかの土地を開発して肥沃なものにしたい、ということかな。」
「なるほど、魔族領か。一つあてがあるかもしれない。問題は彼らがあんたを受け入れるかどうかかな。」
「おお、あるにはあるのか。それは助かるな。できたらそこを案内してもらえぬか?」
「それは、かまわないけど、ここはどうするのかな?」
「ここは引き払うよ。ダンジョンとつながってしまったら、我にはどうすることもできないからのう。」
「なるほど、では、案内する場所に行くまではよろしく。」
「うむ。快諾頂き感謝するぞ。」
「勝手に話がすすんでいるのですが、アイスさん、魔族に心当たりがありますの?」
「はい、いくつかありますね。紹介したい場所は残念ながらアンジェリカさん達にも話すことはできませんが、以前私がお世話になった集落があります。そこがダメなら、ジェミニのいた集落はどうかな?」
「ワタシのいた集落ですか? 問題はないですが、パスタ殿が大丈夫かどうかです。」
「なるほど、わかったよ、ありがとう。とりあえず先を進みましょうかね。」
こうして少しの間だけ、パスタ名付けた妙に長い名前を持つ魔族と行動を共にすることにした。
さて、次はどんな魔物がいるのやら。
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