本当の私

 私には超能力がある。


 人の心を読むことができる能力だ。


 私はその能力を利用して様々な人の心を読み、巧みに自分を演じ分けることで、誰からも好かれる人間になった。


 金も、権力も、尊敬も手に入れた。


 だがある日、ふと疑問に思った。


 本当の私とは、何なのかと。


 Aという人間に対して、私はAが望む言葉を与えた。

 Bという人間に対して、私はBが望む言葉を与えた。


 私自身の言葉で彼らに話したことは、一度もない。


 Aは私を尊敬しているというが、それはAの中に存在する私のことだ。

 Bは私に好意を持っているというが、それはBの中に存在する私のことだ。


 本当の私は、どちらの中にも存在していない。

 

 Aは私にこう言う。君はすごく真面目で、責任感が強くて、信頼できると。

 Bは私にこう言う。君はとても気さくで、ユーモアがあって、一緒にいて楽しいと。


 …………


 私とは、いったい誰なのか。

 私とは、いったい何なのか。





 

 その日から私は、人に会うことをやめた。


 誰も、本当の私を知らないからだ。

 誰も、本当の私が好きなわけではないからだ。


 私は演じることに疲れ、ひとりで自分を見つめ直していた。


 だが、もう私自身にも、本当の私がどんな人間なのか、分からなくなっていた。


 ああ、どこかに、私の心を読める人間はいないのだろうか……

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