それぞれの恐怖

 のっぺら坊と一つ目小僧が言い争いをしていた。


「俺のほうが怖い。人間は、顔がないのが怖いのだ」


「いや、俺のほうが怖い。人間は、目がひとつしかないのが怖いのだ」


 どちらも譲る気配はない。


 見かねた河童は提案した。


「おいらが一人攫ってくるから、そいつに決めさせてみたらどうだ?」


 ふたりは河童の意見を受け入れた。


 間もなくして、河童はひとりの男を連れてきた。


 いかにも気弱げな、顔色の悪い優男やさおとこだ。


 のっぺら坊と一つ目小僧は男の前に顔を突き出し、


「「さあ、どちらが怖い!」」


 と精一杯凄んだ。


 すると男は泣きそうな顔で、


「どちらも怖くはありません。それより、私は黙って出てきてしまったので、早く家に帰らないと嫁に殺されてしまうのです。どうか後生ですから、私を家に帰してください」


 と手を合わせて二人に懇願した。


「「嫁が一番怖いのか…………」」


 のっぺら坊と一つ目小僧はひどく落胆し、闇に滲むように消えていってしまった。

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