おれは金を貸した


ミミズに金を貸したんだよ

そしたら返ってこないんだよ

一体、どうなってやがるんだよ?

法治国家日本

その土台が崩れつつある

おれはアスファルトに顔面を近付けミミズに問い掛けた

なあ?

おれの貸した金ってどうなった?

ミミズは言った

それは予想もしなかった答えだった

「別の、ミミズなんじゃないですか」

なんだってええ

だってお前この間もここにいたじゃん

「我々も移動しますからね」

「じゃあおれが金を貸したミミズは今どこにいるんだよ?」

ミミズはうねうねしながら言った

「さあ」

おれは失望した

おれの全財産である五百円

それがもう二度と帰って来ない予感

途方に暮れたおれ

そのミミズは言った

「元気、出して」

ありがとう

こうして見ず知らずのミミズに励まされるだなんて

あの頃、思いもしなかった

まさか将来、自分がミミズに………

「ところで」

おれは言った

それは自分が日頃から疑問に思っていたことだった

「どうしてミミズって雨上がりの晴れた日とかにアスファルトの上で集団で悶え死んだりしているの?」

そのミミズは言った

「馬鹿なの」

へええ

これには頷く他ない

確かにその外観からはお世辞にも脳が大きいとは思えない

おれはそのミミズとさよならした

お別れの時にもう一つだけ訊いてみた

「ねえ、おれが金を貸したミミズはその金をどうしたと思う?」

「うーん、基本的に眺めるだけじゃないかな?」

なるほど

おれはそれから一度も振り返ることなく歩き出した


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