僕が伯爵と呼ばれる7日の間に

五十五 望(いそい ぼう)

プロローグ



9月の第3金曜の午後に、僕は『鍵束』を受け取る。



ある年は空港ロワシーで。

別の年にはTGVテージェーヴェーのホームで。


今年の場所は……オルリー行きのリムジンのかたわらだった。



『鍵束』と言っても、クロムメッキのディンプル・キーがぶら下がっているわけじゃない。

黒光りする、直径10センチほどのごつごつとした鉄の環と、年季の入った7本の鍵。


そいつが僕の手に触れた瞬間に、僕は『彼』と入れ替わる。


年代も形もまるで異なるそれらの鍵が、僕を縛り付けるのだ。


第4金曜までの7日の間あいだ、タンプル通りのの、小さな城館に。


そして、僕は僕の名で呼ばれなくなる。



では『彼』の名で?



―――いや、少し違う。


こう呼ばれることになるのだ。


伯爵ムシュー ル コーント

あるいは、ただ『ムシュー』と。

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