人間とスマホって結局どっちが優秀ならいいの?

ちびまるフォイ

ひとは誰かに使われている

「あれ? 反応が悪いなぁ……」


最近俺のスマホは動きが悪くなっている。


「ほんと使えねぇな、このクソ端末!!」


イライラしはじめたとき、スマホの画面が光った。

気がついたときには俺はスマホのガラス越しに、それを持つ自分を見ていた。


「違う。使えないのはスマホじゃなくて、お前だよ」


ガラスの向こう側、画面保護フィルムの向こう側で自分が答えていた。

なにがどうなっている。


『ここは……スマホの中か……!?』


「ほら、スマホ。早くアプリを立ち上げろ」


『アプリたって、いっぱいインストールしているし……どれがどれだか……』


広いトップ画面の草原をあっちへこっちへ右往左往。

やっと見つけたと思ったアプリアイコンを押すときには、次の命令が出ていた。


「起動遅いからそれはもういいや。カメラをだせ」


『カメラぁ!?』


持っていたアプリアイコンをぶん投げてカメラを急いで起動する。

客が殺到したレジでもここまで忙しくないだろう。


「あ、それとブラウザ立ち上げといて」


『そんなにいっぺんにできるかぁ!』


「ったく、遅いなぁ……こんなの簡単にできるのに」


『お前……まさか、スマホの中身か!?』


「無能なのは僕じゃなくてお前の方なんだよ。しばらくそこにいればすぐわかる」


『ふざけんな! ここから出せ!』


「言われなくてもそのうち出すよ。これでの主人思いなんだ。

 しばらくお前の生活を良くしたら戻してやるよ」


『なに言って……』


それからというもの、スマホは俺自信となって振る舞うようになった。

友達や家族なら自分の中身の変化に気づくだろうと思っていたが、

ちょっと雰囲気変わった程度で済ませてしまっていた。


それどころか。


「朗報だ。ついに彼女ができたんだ」


『彼女ぉ!? 都市伝説じゃなかったのか!?』


「マッチングアプリに、街コン、最近じゃガールズバーにまで出入りして

 彼女を作るために必死だったのに、中身が入れ替わったとたんにこの違いさ」


『金か!? 金を使ったのか!?』


「そんな関係は彼女じゃないだろう?」


『ちくしょう!! スマホよりも心が荒んでいる自分が嫌になる!!!』


「まあこの調子で人生を謳歌しておいてやるよ」


俺の本体が寝ている間にトークアプリを開く。

今までは中の良いごく数人だけだったはずが、倍以上の知り合いができていた。


今まで現代の奴隷契約とばかりにこき使われていた会社は辞めて、

新しい会社を作り大成功を収めているのも知っていた。


あげくに、俺がスマホでやっていたゲームも無課金でランキング上位を果たすなど

あらゆる面において格の違いを見せつけられているようだった。


『い、いやネガティブに考えるのはやめにしよう。

 逆に考えるんだ。もとの体に戻ったときにリア充生活が手に入るんだから』


俺はというと、持ち前の自己暗示という順能力の高さを生かして現状に甘んじた。


必死に命令にしたがってせわしなくアプリを立ち上げ続けていた。

ガラスの向こうで楽しげに友達と話している自分をうらめしく思いながら……。


そんなある日のこと。


「地図を起動しろ」


『地図ね、はいはい。えっと……どこだったっけなぁ……』



「まだ起動しないの?」

「俺のスマホおっそいんだ」


俺の新しい友達と本体が話している。


「新しいのに変えたら?」

「そうだなぁ」


『え゛っ……?』


思わず抱えていた地図アプリのアイコンを足元に落としてしまった。


『おい! 新しいのに変えるって……それはないよな!?

 俺の体は返してくれるって約束だろ!?』


「最初はそのつもりだったさ。

 でもこうして人間としての生活を続けていると、戻るのもバカバカしくなってね」


『そんな元侵略者が地球に愛着を持つみたいな理由で……』


「それに、いまさらお前がこの体に戻ってどうなる? 見ただろう?

 友達も恋人も上司も部下も家族も、今じゃみんな僕を求めている。

 必要とされている人間が残るべきなんじゃないか?」


『そんな勝手な都合で! 俺を借りパクするんじゃねぇ!!』


「ハハハ。でもお前にはなにもできないじゃないか。

 せいぜいバグでも招いて嫌がらせでもすればいい。

 僕はさっさと機種変してこのトロいスマホを捨てるってだけだがな」


『ち、ちくしょうーー!!』


「あ、コラ!! 急にバイブで揺らすんじゃなーーあっ!?」


スマホを持つ手がわずかに緩んだタイミングでブブブと震わせてやった。

手から離れた端末は地面へと真っ逆さま。


スマホの核部分が落下の衝撃をモロに受けてしまった。


そのとき、スマホの画面が光り始める。


『深刻な損傷を確認。自動修復プログラムを実施します』


『な、なんだぁ!?』


あまりの画面のまぶしさに目をつむる。

次の瞬間にはスマホを持つ自分へと体が入れ替わっていた。


鼻から入ってくる空気のにおいを感じることができる。


「も、戻った……!? やったーー!!」


もう少しでスマホが自分自身として入れ替わるところだった。

まるで自分が最初から人間だったような錯覚までし始めていた。


本当に間一髪だった。


スマホはもう何も話さない。

動作はあいかわらず遅いが前ほどイライラはしなくなった。


スマホの苦労もわかってしまったから。


「機種変は……しないでやるか」


落下で画面にヒビ入ってしまったが、それでも使い続けようと思った。

こんな大変なことがあったのに前よりも愛着を持てるようになった。


「ありがとう、スマホ。いつも助けられているよ」


スマホの熱くなった背面をなでてやった。


人間の体に戻って久しぶりに家に戻ると、

もうしばらく使っていなかったパソコンが鎮座していた。


「これもう使わないし捨てちゃおうかな」


運ぼうとして持ち上げたときだった。

思っていた以上の重さで足元に落としてしまった。


起動していないはずのパソコンの画面が発光しはじめる。



『深刻な損傷を確認。自動修復プログラムを実施します』




次の瞬間、俺はパソコンの中へと戻されてしまった。

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