『オリエント古代の探求 日本人研究者が行く最前線』前田 耕作∥[ほか]
『オリエント古代の探求 日本人研究者が行く最前線』前田 耕作∥[ほか]著 清岡 央∥聞き手 編(中央公論新社)2021/04
面白かったです。オリエントの遺跡発掘で活躍している日本人研究者九人のインタビューをまとめたもの。コロナ禍の中でも対面取材にこだわったということで、研究を志したきっかけ、大切にしていること、視点の置き方、などなど、地道な作業なのだけども、驚きと興奮にあふれた現場の雰囲気がとてもよく伝わってきました。
冒頭は最年長者、1933年生まれの前田耕作さんのお話からなんですが、もうしょっぱなからきました。
戦時中いじめを跳ね返すために勉強したこと、戦後の混乱の中親友のおかげで本が読めたこと、文学部に進学できたこと。学生たちの気風、恩師たちの存在。
大学が海外に調査団を派遣することが一大プロジェクトで、現地の外交官の尽力もあってって、人や時代の熱い空気感みたいのをすごく感じました。
内戦によって調査ができなくなったり文化財が損なわれたりと破壊がつきまとうのもこの地域ならではだと改めて。
〈バーミヤンの体験からいえることは、これからの遺跡調査では、三次元の映像データを残すのが必須になるということです。タリバンにせよ、シリアやイラクで文化遺産を破壊したイスラーム過激派組織「イスラーム国」(IS)にせよ、文化的に重要視されているゆえに標的とし、破壊するという新しい現象が生まれてきています。
近年の技術は、レーザーなど新たな科学的結実も使ってさまざまな測定が可能で、それによって得られた各種のデータをもとに、いつでも復元できるようになりました。破壊されてもまた復元してみせることで、破壊の無意味さを知らしめることもできるのです。〉(p43)
〈文化というものは、そんなに無益なものでしょうか。文化の活動なしには、「生」の基本的で豊かな持続可能性は担保できないことを、新型コロナウイルス禍が痛切に私たちに教えてくれました。人間はパンのみにて生きるにあらずです。
私たち考古学者の文化を捉える視点も変わったと思います。昔はすぐ「ナントカの起源」を求めました。(中略)今は違います。文化が交差する生き生きとした現場を見つけることが重視されています。文化というものは、たとえどんなに離れているようでも同時代的な共鳴がある。その現場を見出し、その具体的な在り方や仕組みを示すことで、現代に新しい提言を行う。それが考古学の大きな使命だと私は感じています。〉(p45-46)
初出:読書メモ56 近況ノート202年1月14日
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