『スキタイと匈奴 遊牧の文明』林俊雄

『スキタイと匈奴 遊牧の文明』講談社学術文庫2390 林 俊雄[著](講談社)2017/01



考古学からのアプローチで騎馬遊牧民の誕生と文明に迫る一冊。広大なユーラシアの草原で、次々発見される古墳の発掘の様子にどきどきわくわくです。


発掘された馬具や装飾品、美術品の意匠について詳しく解説されてるのが面白かったです。スキタイ美術にしか見られない特徴があって、ユーラシアに広く点在してるんです。そんな中でもペルシア風とかギリシア風とか、他地域のモチーフを自分たちのものにしてるのですね。いかに行動・伝播範囲が広く多様な文明だったか分かる。シルクロードにオアシスルートが開かれるはるか以前から草原を行き来していたわけです。


アルタイの奇跡と言われる凍結墓パジリク古墳群からは、絨毯やフェルトの壁掛けなどがほぼ当時のまま出土してるのです、すごい。フェルト製の鞍覆いがなんともおしゃれ。またなんとも可愛いのがフェルトの壁掛けにアップリケで表現された女神と王様。王様が乗った馬とか服装とか、顔のパーツとかが、現代だったら子ども部屋に飾られるような素朴なつくりなのです。かわいい~。


埋葬された馬も飾り立ててあったらしいのですが、その復元図が衝撃です。馬が鹿の角の被り物をしてるのです! そんな馬鹿な、とか言ったらいけませんよ(爆) 角が生え変わる鹿は再生を意味する神聖なモチーフですが、鹿に馬具を付けて騎乗することはできない。それで馬に鹿の扮装をさせたのだろうっていうのですが……良きパートナーとして死後のお供までしてるのに、鹿のコスプレをさせられる馬の立場は……。


とまあ、スキタイ美術にやられてしまいました。これほとんどエルミタージュ美術館蔵なのです、むー。日本に展示来ないかなあ。


この凍結墓の遺物のおかげでヘロドトスの王の葬儀に関する記述が合ってることが確認されたりも。発掘で文献の正否が証明されたこともすごいけど、ヘロドトスの観察力、記述力もすごい。


ところで。前の読書メモの『逆転の大中国史 ユーラシアの視点から』では文化でスルーされていた冒頓から呂后への手紙の件が、こちらではセクハラ事件としてあつかわれてます。ええはい、当人がセクハラと受け止めればセクハラですからね。仕方ないですね。でもセクハラって言われるのが怖くて気軽に口説けなくなっちゃうのも人間学的に…………相手に気があるかないかくらい読み取ってからアプローチしろよってことなんですが…………でもなあ、その学習だって場数を踏まねばならないわけで…………エンドレス



初出:読書メモ⑯近況ノート2019年5月24日

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