【過去作品置き場】

ステラ

作品置き場 異世界ファンタジーっぽい何か

勇者が脱出不可能なダンジョンでセーブして詰んだ

「勇者様!…ゆう…し…様っ!」


誰かがこの世界に俺を呼び止めようと必死に回復魔法を使ってくれている。

だが、もう既に分かっている。この身体では、もうすぐ死んでしまう事ぐらい。

自分の身体の事は自分自身が分かっている。

どうせ、またダメなんだ。倒せやしないんだ。

分かりきってるんだ。


俺はそっと意識が薄れゆく中、身を委ねていく。


「87回目ですねこれで」


………とてもではないが、可愛らしい顔とは思えない鬼の形相で睨んでくる一人の女の子。


薄れていた意識はいつの間にか、いつもの場所へと出て、ウンザリと言った顔で俺を皆見つめる仲間達。


「いつになれば、私達ここから出られるんですか??ねぇ、勇者様っ?」


僕の身体へと、沸き立つ怒りを肩にぶつけながら握ってくる。魔法使いとは思えない握力だ。


「いだだだだ…!やめろ!馬鹿!」


腕を大げさに振って振りほどく

「仕方ないだろ…だって、まさか」


ここが脱出不可能のダンジョンだなんて誰が思う?


ボス手前でちゃんとセーブポイントなんて置きやがって。

しっかりとセーブしたと思えば、倒せなくてやり直し。仕方ないから街に戻って、一度対策を練ろうと思えば


【不思議な力によって守られてる…】だぁ!?


誰だよ!扉なんかに、不思議な力なんて込めた奴、というか馬鹿だろ!第一、そういうのは戻って来れないだろうとか、テロップ見せろよ!!

っざっけんな!敵も出てこない、アイテムの補充をしっかりして挑む事すら不可能。

大体、何なんだよアイツ!敵の癖に


「ふはは…我を倒そうなどと甘い事無いわ。消し炭にしてくれる!」


とか魔王っぽい事いっておきながら、やられたらやられたで


「えっ、死んじゃう?それで死んじゃうの…?分かったよ…。回復してあげるからまた挑んできてね」


意識が薄れてるから、聞こえてないと思ってんのか!?しっかり聞いてんだよ!仲間がさぁ!

大体、なんだよ。デバフをしっかり掛けた上でえ?死んじゃうの?ツンデレかよっ!

ってか、戦闘で敗北した後って負けた相手側が回復してんのか!?初めて知ったぞ!オイ!

そもそも、主人公死んだら敗北ってなんだよ!蘇生魔法の意味ねぇじゃん!クソゲーかよ!?


「私が馬鹿でしたよ。そもそも、勇者様自体冴えないし、馬鹿だし、大体何で行けると思ったんですか?」


こ、こいつ……人が気にしてる事をグサグサ言いやがって………


「あー悪かったな、大体お前が付いていきたいとかいうからだろ?」


「それは仲間フラグがたって、建前の言葉です。第一、こんなおっさんに着いて行きたがる奴いますか?勇者の名を被った糞童貞が」


「」


何度も挑戦してるおかげもあってか、仲間達から容赦ない罵倒の声。

それも仕方ないとはいえ、既に87回の挑戦勝てる訳もなく、第一勝ててるなら既にこのダンジョンとはおさらばしてるものな……

というか、何でおれの周りの仲間は気が強い女ばっかりなんだ…。


「とにかくですよ、ここから出る事も叶わない。その上ボスには明らかにレベル不足、その上アイテムの補充すらまともにしてなくてジリ貧になるのは絶望的」


「何でこれで勝てるって思ったんですか?」


「だ、だって…そもそも、出れないなんて思わなくて……」


「だったら、尚更ですよ。そもそも、相手は敵なんですよ?自分のテリトリーに入ってきた奴を逃すと思いますか?」


ぐぅの音すら出ない。


「はぁ……大体ですよ。何で、魔法使い、魔法使い、賢者なんていう糞バランスパーティなんですか?」


だ、だって…魔法強いし


「馬鹿なのか!?タンク1、ヒーラー1、アタッカー2を知らないんですか?これが大縄跳びを出来ない屑の末路ですか」


酷くない!?というか、他のゲームの媒体を出すのは止めろよ!!下手すりゃ消されんぞ!


「はぁ…この馬鹿についてきた私達が馬鹿だというのは分かりましたよ」


仕方ないですものね…と、周りの女共は俺を馬鹿にする。


「な、ならどうにかする案でもあんのかよ!!第一、お前らが遅いのが悪いんだろ!?」

「最初に賢者がバフして、俺がメインで殴って魔法使いのお前らがデバフと回復の管理が俺らの戦い方じゃん!」


「…この際だからはっきり言いますよ?こっちが合わせてんだぞ?あぁ?今更遅いだぁ?」


突っ込んで行くバカは何処のどいつだぁ?あぁん?


鬼の形相で俺をにらんできやがる。

俺だって、負けるつもりで来たわけじゃないのに……くそぉ………。


「はぁ……溜息ばっかり出ますけど、どうします?」

「この馬鹿を生贄に私達だけでも出せないか聞いてみない?」

「俺の扱い酷くない!?」

「黙れ、糞童貞」


はぃ………


「あのー……」

「あ゛!?んだよ、こっちは今どうやって出ようか考えてんだよ!!」

「あの……何か困らせちゃってるようで、というか扉の前でそんなに騒いでたら、気にもなりますって」


…………


目を合わせる俺ら、そりゃそうだ。なんたってボスがこっちを向きながら怪訝そうにこちらの様子をうかがってるんだから




「ねぇ、この状況は何?どうして、俺はボス含め怒られた上にボコボコにされてんの?」


顔は真っ赤に膨れ上がり、既にまともな原型を留めて居ない。


「あのね、君、ボスの私から言うけどもさ。馬鹿じゃないの?」


ボスにまで馬鹿にされた!!一体、俺の何がダメだってのさ!


「そもそも、ここって推奨レベル84だよ?え、なに今時の若い子は『がんがんいこうぜ』しか覚えて無いの?」

「それに、君のレベルってまだ50そこらじゃん、むしろ何で今まで突破してきたの?可笑しくない?」

「この馬鹿が、蘇生魔法で自転車操業しつつ無理やり突破してきてるんです。後、途中の敵はデバフが来てもその間に、解除魔法を掛けられたので問題無かったんで…」

「だからってここまでレベル上げ怠る馬鹿居るもんなの?魔王の側近として言うけど、仲間が不憫過ぎて正直どうしようもないよ?」


こ、こいつら……とことん、人を馬鹿にしやがって………!


「だ、大体!!人をバカバカ言うんだったら、お前ら俺より強いんだよな!!俺が居なければ…」

「余裕ですね。だって、魔法使いは95、97LV 賢者に至っては103とソロ最難関と称されるLv100レベルキャップ解放クエストクリアしてますし」


!!?


「はっ!?え、!?」

「あーだよねー。明らかに戦ってる時、賢者の魔力尋常じゃなかったもん」

「おまっ…え?何処でそんなにレベル上がって……」

「お前が死にまくるから、雑魚とかでに手に入った経験値が溜まっていくんだよ!分かるか??!」


!!!?


「いいか、何か勘違いしてるみたいだけど、お前雑魚戦で死んだ時って、私達が片づけてるんだ」

「その後、蘇生魔法掛けて、起きる前にMP回復してあげてんだよ?」

「大体お前が前衛でたって戦うもんだからお前が死ぬと、その時点でボス戦だろうと雑魚戦だろうと相手めっちゃ気まずい目で見て来るんだぞ?分かるか?」


何かのうっ憤を晴らすかのごとく、怒り狂った顔で3名が俺を睨みながらそれぞれの文句をぶつけて来る。


「あの…はい…ゴメンナサイ」


「ゴメンナサイじゃねぇんだよ。大体そもそも、何でレベル差を考えないんだ?50と80じゃあ、30台も違うだろ?」


「いや、それは…今まで勝ててるし、そんなに強く無いかなって……」

「あのね、それは周りが強いのであって君が強い訳じゃないの。分かってる?」

「はい……」


ボスにまで、ダメだしされるこの始末。

早くこの場を何とかしてくれ。辛すぎるっ…!


「はぁ…じゃあ、アレか。この馬鹿が居なければ私を倒す事は簡単なんだよね?」

「えぇ、そもそも、この馬鹿が死んだら一度戦闘は終わりになるじゃないですか。まぁ、雑魚は言葉が分からないみたいなんで殺してきましたが」

「成程、それで経験値が入ってたのか」

「納得すんな!この馬鹿っ!」


ぐへぇっ!? ドキツい一撃が僕を襲う。どおりで常々賢者の殴りが強いのかわかってきた…。俺とのレベル差が50以上あるからなのか……


「なら、魔法使いと賢者お前らだけで挑んで来い。そのバカは、この扉の前で待ってろ」

「え、それいいんですか?」

「別にゲームルールに勇者を絶対連れて歩かないと行けないという規則はない。この馬鹿が居なければ戦いやすいのだろう?」

「もちろんですっ!この馬鹿、MINDもDEFも何もかも私達より低すぎるんで、助かりますっ!」


グサッグサ

え、っていうか、俺魔法使いや賢者より防御ひくかったの?精神対抗はまだ分かるけど、えっ?

「そうと決まれば、やりますか。あ、馬鹿は来ないで下さいね?」

「アッ、ハイ」


白々しく受け答えをすると、3名の仲間達は扉の中へと消えていき……


数時間後………


「まだ…かなぁ…」


ギィイ…


「あっ!」


「ふぅ、倒せましたよ。まさか、ラスボスでもないのに、第二形態まであるとは……」

「ありがとう!これで…」

「近づくな、糞童貞」

ぐほぁ!?

「金○マはダメだって…!死んじゃう…死んじゃうって…!」

「どうせ、中のモノだって死んだところで、困らないでしょ。子供なんて作れないんですし」

「酷い!?そういう問題じゃなくて……」

「後、あんたとはもうこれっきりです。はいこれ」

「へっ?」


賢者から貰ったのは、パーティ辞職通知届であった。


「いや、えっ?」

「もう今回の一軒で分かりました。うんっざりです」

「ちょ、ちょっとまtt

「待つも何もありません、あ、後彼女達も同じ気持らしいので、悪しからず」


俺は頭の中が真っ白になった。


「じゃ~ねぇ~この馬鹿勇者さ~ん?」

「二度と私の前に現れないで下さいね。貴方の顔を見たくありませんので」


二人も思い思いの本音を俺にぶつけて、ダンジョンの中から去っていく。

俺はじっとその場で何もできず、ただただ立ちぼうけながら

どうしてこうなった と思い続ける事しかできなかった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――


やぁ、コレを見ている貴方は俺の境遇をどう思いますか?

仲間に見捨てられ、ボスにもバカにされてしまった俺ですが、何とかボスを倒して出れると思っていました。


そんなに甘い訳が無い


…出れませんでした。えぇ!出れませんでしたとも!!


出ようとすると、『不思議な力で守られてる』って言われて、扉は開かないし!

え、なに?倒したメンバーだけしか出れないの!?そういうのは最初から書いておけよ!

…えぇ、えぇ。そうですよ、未だに俺はこのダンジョンから出れておりません。

levelも50台、仲間はいない。ソロで80レベルのボスなんて倒せる訳が無い。

積んだよ。マジでどうすんのこれ、ホント、敵も出てこないからレベル上げも出来ない。というか、もし敵が居ても死ぬ未来しかない!

死んでも、セーブポイントからの復活になるからどうあがいても出れない!


あー終わったわ。俺の冒険はここまでだわ。デロデロデロデーンとか言って、まだデータが消えました。とか言われるドラ○エの方が気が楽だわ。

ただ、幸いにも食料に関してはボスから貰え、食事にはありつけるので何とか生き延びれてます。

…あぁそうだよ!!ボスにただ飯貰って、ただただこのダンジョン内で生きる糞ニートだよ!


なんなんだよ…マジで……

俺の望んだ未来は、強いボス倒して、伝説の装備身に着けて、可愛いヒロイン達を守りながら戦う勇者になりたかったのに…

今じゃ、ダンジョンで暮らしてるよ。これじゃあ、まだ死んで骸骨になってる方がマシだ!しかも、ボスに養われてるし!!


「はぁ……」

「何だ、溜息なんてついて」

「着きたくもなるよ!もう既に4カ月もこのダンジョンに閉じ込められっぱなしだし!養われてるし!」

「それはお前が仲間を大事にして無くて」

グサッ

「ちゃんとレベル上げをせず突っ込んで」

グサグサッ

「挙句は、周りの方が強いとかいうリーダー格にすらなれない状況を作ったお前自身が原因だろう?」

グサグサグサッ


こんのっ…!的確にグサグサ言いやがって……!

「その上、魔族から養われてもなお頑張って私に戦おうなどと甘い考えを持ちよって…」

「うるさいっ!大体、俺だってこんなつもりじゃ……」

「良いか、魔族の一人として言わせてもらうが、そもそもお前のその甘ったれた考えが原因で自分の首を絞めてるんだろう?」

仲間に頼りっぱなしで、延々とレベルも上げず、今更レベルを上げて、私を倒そうなどと言うのがそもそも間違いじゃないのか?


……ぐうの音も出ません。ハイ


「はぁ………どうすりゃいいんだよ、俺は…」

「このままずっとここで暮らすか私を倒すしかないだろうな」

「どっちも嫌すぎる…飯は美味いから、尚更、自分が魔族に助けられてると思うと…」

「なら、倒すんだな。どちらにせよ、戦うのであれば手加減はしないぞ」

「というか、そもそもボスの癖にバフ・デバフ管理とか卑怯じゃない?」

「なっ…」

「ボスなら正々堂々自分の力で勝てっての」

「ほぉ……!なら、貴様は自分のチカラであれば勝てると言うんだな?」

あ、やべ

「ならば、倒して見せよ…真の力を開放した我を倒して見せよ…!」

「ちょ、ちょっとまtt

問答無用!!



「謝る事は無いか?」

「ばい、ごべんばざい」

ボコボコに晴れ上がった顔を摩り乍ら、謝る惨めな俺。

「宜しい、実力差があるのに、そういった考えを持つ自体が愚かとしりなさい」

「はい……」

「……まぁ、君の気持ちを分からないでもない。魔族に養われて、悔しいのだろう?」

「えぇ、まぁ……はい」

そう言いながら、傷ついた身体に回復魔法を掛けてくれるボス。優しすぎて涙が出そう。

「ならば、やはりレベルを上げるしかない」

「………」

「なんだ?嫌なのか?」

「あの、そのレベル自体あげれないんですよね。雑魚敵居ないし……」

「!?」

…ん?何か今不自然な顔になったな?

「あ、あぁ…そうであったのか…ならば、仕方ないな……」

「………ジー」

「な、なんだ?」

「何か隠してる事ありません?」

「…な、ないよ?ピューフュー」


あ、絶対何かある。嘘みたいな下手な口笛なんて吹いて、これで隠す気でもあるのか…?


「怒らないので、言ってください。というか、貴方には勝てないので逆らっても死ぬだけなんで言ってください」

「…ホント?」

ちょっとかわいいと思った自分にムカつく。

「ホント。怒ったら、その時は飯抜きで良いので」

「…あのね、多分、ね。雑魚が居ない理由はね、ここのね。賃金がね…」

「?賃金?」

「あーもう!そうよ!賃金が安いのよ!!!」

!!!?

「こんな、辺境の地を守れなんていう魔王様が悪いのよ!大体、魔物だって生きてるの! 死ぬ・休みなし・痛いの糞三拍子な仕事場に誰が雇われると思ってんの!!」

「えぇ…?」

「そうよ!お金が無いの!だから、雇うお金も無いから、自分の身の周りのお世話をする魔物しか雇って無くて、まさか敵が居ないなんてなるなんて思わないじゃない!!!」

「じゃあ…え~と、俺がこのダンジョンで積んだのは」

「私のせいよ!何か文句ある!?」


顔真っ赤に、しながらドキツい顔で俺を見る様は、俺よりとても悲惨なんだと感じてしまう。

あぁ…そっか、このダンジョンでボスと使い魔程度の敵しか居なかったのは、このボスが貧乏だったからなんだ…

って待ておい!

「ん?」

「んじゃあ、不思議な力で出れないとかの作動装置ってどうやって維持してるんだ!大体、あの手のギミックには金が無ければ維持出来ないだろ!!」

ギクッ

…こいつ、まだ何か隠してやがるな……!!


「なぁなぁ、まだ何か隠しちゃいないかい?」

「嫌だなぁ…隠していませんよ?」

「怒っても、俺には貴方は殺せないし。むしろ、このままずーっと顔を合わせるかもしれない相手に罪悪感を抱いて過ごすのとどっちが良い?」


「……分かったわよ…」

話すけど、怒らないでね…?



…唖然とした。

このダンジョンそもそもが誰かが作ったかも分からないダンジョンで。

しかも、生きてるぅ!?

「そう、生きてるのよ。コイツ…そうね、カル○ファーとも言いましょうか」

「それOUT!ヤバい所から怒られるから!ギリギリな物は止めて!」

「とはいっても、魔力を吸い取って生きてるから実際には生きているのではなくて、宿主が居れば生きてる。居なければ動かない」

「その宿主が…」

「そう、この私。だから、私を少しでも仮死状態に持ち込めば出られるって訳」

「成程……アレ?じゃあ、何で俺は出られないんですかね?」

「それは…きっと、アレよ!倒して終わった後すぐに出て行かなかったからじゃない?」

私が声掛けても放心状態が治らず、ただただボーっとしていたしね。

「…つまり、仲間に捨てられてもすぐにへこたれず出て行ってれば」

「そう、君は出ていけて、積まずに頑張れたかもしれないって事ね」

心の底から、嘘だ!!と叫んでいた。

あの時、あの一瞬、確かに賢者達はボスを倒していた。

だからこそ、彼らは脱出が出来た。でも俺は仲間に蔑まれた事、金○マを蹴られた上に辞職届を貰って

その間に出ること自体は出来たのだ。

「あ、あぁ……そうだったん…だ…ははっ」

「…あの…大丈夫…?」

お世辞にも大丈夫です!生きる未来が見えました!

なんて言葉が出る訳もなく

ただただ、このダンジョンで出るには彼女を、ボスを倒すしかないと再認識するだけだった。



「ふん!おりゃぁ!」

あれから既に半年が立った。誰一人ダンジョンに来る気配がしない。

だから俺は、壁に何度も剣を打ち付け何れは壊れると信じて斬るしか他無かった。

「あら、今日も精が出てるわね。いつか出れたらいいわね?」

「五月蠅い…シャム、また俺を馬鹿にしてきたのか?」


流石に、半年も時間が過ぎると、ボス なんて言い方も嫌になってしまったので、名前を聞いた。

シャーム・ウィルアム・シャートリー それが彼女の名前だ。

通称、シャム。年齢は分からないが、死霊らしい。

元々はシャートリー家の貴族様だったらしいのだが、古代文字が読めると分かると異形とされ、魔女狩りと称して殺されたらしい。

勿論、そのままでは死ぬ訳が無いので、彼女は自分自身に一つの呪いをかけた。

『彼女を殺した人物達を全員殺す』それを、世界にある魔力の楔に絡めたらしい。

要は彼女の呪い=世界が望む未来 との事

頭が可笑しい…。


「ふふっ、ご飯を持ってきただけなのに、要らないの?」

「頂きますっ!」


俺はシャムが持ってきたトレーから盛り合わせたパンやジャムを奪い取るように食べ始める。

「そんなに、急がなくても…」

んぐっ!?喉に、パンを詰まらせてしまう。

「あー、言わんこっちゃない。ほら、お水。ゆっくり食べなさいって」

「んぐっんぐっ、はっーぁ!死ぬかと思った」

「急いで食べるからでしょ…そんなに急いで食べても、死ぬだけじゃないの?」

「どうせ、このダンジョンで死に絶えるかもしれないんだ。だったらここで少しでもはやく出る!」

そう言って、食べ終わると剣を持ち、また壁へと打ち続ける。

「出れるものなのかしらねぇ…」

シャムはそそくさと邪魔にならない様に、空になった皿を持って行った。


「…ねぇ、そういえば、私、貴方の名前を知らないわ。なんていうの?」

「…俺の名前なんて知ってどうする?」

「どうもしないわよ~、ただ私は教えて、貴方が教えないのはなんかズルいなと思っただけよ」

「…リー リー・ファンディール だ」

「あら、貴方、ファンディール家の…」

「知ってるのか。なら、話が速いな」


俺の一族は魔族と人間に出来た穢れた一族だ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


俺の名はリー・ファンディール

過去に起きた始祖戦争の引き金になった一族の末裔。

そもそも、魔族と人間達はそこまで仲が悪い訳ではなかった。

仲よく暮らしていたと言う訳ではないが、お互いに干渉を避けて、戦となるべき行為は避けていた。

なのに、何故戦争が起きたか。その出来事を語るには長くなってしまうから、単純に言えば

人が魔族を殺した。


元々、ファンディール家は魔族との関わりを大事にしており、魔族との間の子が出来るくらいには仲が良かった。

何でも最初の当主が魔族に助けられたらしい。だが、それを良しとは思わない人間も居る。

その当時、ファンディール家の当主だった人間は魔族だったらしく

人間の世界に普通に出掛けているのが気に食わなかったのか、夜討ちで殺されたらしい。


勿論、俺が出来た頃には既に魔族との繋がりなど既に無い、血もほぼ人間の純潔だろう。

だが、人と言う物は残酷で過去しか見ない。

ファンディール家の人間と言うだけで煙たがられ

魔族からは酷く蔑んだ目で見られる。

どちらの世界にも居心地が悪かった俺は、物心着く頃には逃げ出していた。


「で、そこで小さな冒険者ギルドに拾われて、冒険家として勇者として魔族と人間の世界を断ち切りたい」

「そういう事だったのね?」

「あぁ…」

「な~んか、ゴメンナサイね。聞かなきゃ良かったかしら?」

「良いんだ、別に過去の事だ。気にする事じゃない」

「ふ~ん……意外にも、素直なんだ」

「悪いか。元々この血を恨んじゃいないさ。恨むべきは本来それにしか同調できない人間や魔族だろ」

自分の意見を持てない事がどれだけ恥ずかしい事か分かってないんだからな


俺はそう言い切って、また壁へと剣をぶつけていく。

ガィン!

何度も何度も弾かれても、何度も、何度も打ち付けていく。


「………ね、手伝ってあげよっか」

「…何のつもりだ?」

「何も~?ただ、貴方が出たいって気持ちが私には少し分かるだけよ」

「私だって、昔は酷い迫害を受けたのよ?だから、貴方の気持ちが分かる」

「それだけじゃない」

「余計な…お世話だっ!」

勢いよく剣を壁に突き付けたその瞬間だった。

突然、不愉快な大声が俺の耳を貫く。

「な、なんだ!?」

「分からないわよ!あんたなんかしたんじゃない!?」

「知らねぇよ!ってか、うるせぇ!!!何か言いたい事あんなら言えよ!!」

俺は訳も分からない奴に向かってそう叫んだ。すると

「イタイカラヤメロ………」

俺が殴っていた壁からニュルリと顔のような形で、そう言った。

そう言ったのだ。

………!!!!??????


「待て待て待て!!どういう事だ!?おい、シャム!?」

「え、知らないわよ。というか、貴方誰?」

「普通に話しかけるなー!!」

「オレ、コノダンジョン、ナマエ、ナイ」

「……なぁこれって……」

「えぇ、本当に生きていたみたいね。まさか、本当に生きているダンジョンだったなんて」

驚きのあまり、俺は声を出す事すら忘れ、ただただ剣を構えたまま放心状態になっていた。


え?生きてるってそういう意味だったの?

魔力を吸って動いてる じゃなくて、リアルで生物だったの?は?


「オレ、ナンドモシンダ。マリョクスッテ、イキカエル、ナノニ、オマエ、ヤメナイ」

「キレソウ」

「あああああ!!!ごめんなさい、ごめんなさい!!!」


全力で謝る俺

「通りで、最近魔力の吸われる量が多かったと思えばそういう事だったのね…」

「納得してる場合かー!!」


泣きそうになりながら、この場を収めてもらおうと必死に謝った。

そりゃもう土下座して、本当にごめんなさいー!!って謝ったよ。だが…

「ユルサナイ、ナンドモコロシタ」

「ひぃいいい!!!」

「というか、そりゃ、許してもらえる訳が無いよねぇ…」

「オマエモユルサナイ」

「何で私も!?」

「オマエ、トメナイ。ツマリ、オマエ、ナカマ」

「私は貴方の主人よ!?」

「デモトメナイ ユルサナイ」


そう言って、そのダンジョン(?)は壁から大きな手をニュッと出してきた。

「ゼッタイニユルサナイ」


「ちょ、何とかしろよ!あいつ魔力を…って、シャム!?」


身体は床に擦り付け、気分が悪そうな顔をしている。


「あはは…これ絶対大量に魔力吸われてるわぁ…リー、何とかしてねぇ…」

「何とかしろって、おまっ、ふーざーけーるーなー!!」


俺は急いで、シャムを抱きかかえて逃げ始める。


「ニガサナイ、オレノウラミ、クラエ」


石でできた腕で俺達を追いながら、拳で殴りかかって来るソイツは尋常では無かった。


「ちょ、ストップ!な!止めようぜ!」


俺は息を切らし、このまま逃げててもらちが明かない。そう思い、相手との対話をしようとするが

「ナラ、ナンデコロシタ」

「ひぃい!!」


聞く耳がある訳もなく、大量の拳骨で俺を殴りにかかって来る。

間一髪でかわしていくも、いつ当たっても可笑しくはない。


「どうしろっていうんだよ!糞…糞!」

「イツマデ、ニゲル。タタカエ」

「お前が、少し落ち着いて俺の話を聞いてくれたら戦うよ!!」

「ホントウダナ?」

「あぁ!だから、殴るのを止めてくれー!!」

「ワカッタ」

そういうと、追ってきていた石の拳は崩れ去り、ただの岩石となった。

「ナラ、キカセロ。ドウシテオレコロシタ?」

「違うんだ、まず俺の話を聞いてくれ」


俺は、何でこの場所に閉じ込められて、壁を剣で切っていたのかを教えた。

「ナルホド、デレナクテコマッタ、ソウイウコトカ?」

「あぁ、そうだ。だから、お前を殺すつもりも殴るつもりも本当は無かった。後、それに…」

担いでいたシャムを下ろして、こういった

「お前の主人、お前が暴れるもんだからほら見ろよ」

「気絶している。これでお前の魔力はこのシャムって奴から貰ってる事が分かるだろ?」

「ホントウダ。ソレハ、スマナイ……」

「分ればいいんだ……」

「デモ、ヒトツダケキカセテクレ」

「なんだ?」

「オマエ、コノシャムッテヤツ、ツヨイナンデ?」

「はぁ?俺はこのダンジョンに入って、レベル上げなん……て……」

「あああああああああああああああああああああああああああ!!!???」

「トツゼン、ナンダオオゴエ、ビックリスル」

「お前、なんレベだよ!!!」

「オレ?オレ、レベルナイ。ツヨサナイ」

「!???」


さて、何でおれがここでこんなに驚いてるかちょっとだけ説明させてくれ。

この世界においてのLVとは、そもそもどの物にもある。

無機質だろうが、有機質だろうが、だ。リンゴや鉄、道具にすらレベルがある。

この世界の理と言ってもいいだろう。

だが、稀にレベルが無い存在 エトセトラというものが存在する。

これはレベルが無い代わりに、完全体ともいえる存在で、魔王などがそれに該当する。

勿論、手に入るEXPやスキルptなど多いらしいが、実際の所、実在するかもわからない。

だから、実際にこうやって出会うのも初めてだし

討伐したのも初めてだ。

さて、説明は以上だ。本編をどうぞ


「はぁああああああ!!??」

「オレ、レベルナイ。ソレドウシタ?」

「おまっ、それ、…いや、突っ込むのは止そう。正直疲れた」

「?」

「?じゃねぇんだよ!…って事はアレか、俺、いつの間にかダンジョンから出る為に必死こいて壁殴ってたら」

「レベルアップしてたのか…?」

「んぅ…アレ、リー…私は…」

横たわっていたシャムが起き上がり周りを見渡す。

「あぁ、シャム…ちょっといいか」

「なんだ?出来れば、少しでもいいから状況説明を…」

「それもそうだな…カクカクシカジカ」

便利だよな、カクカクシカジカ 四角いム○ブなんて一時期はやったもんだ。

「はぁ!?」

「オレ、ワルイヤツダッタ。ゴメン、シャム」

「いや、良いんだ…私だって知らなかったんだから」

「あのーお二人で話してるところ悪いんだけど、俺レベル上がってんの!?」

「あ、あぁ…そういえば、最近お前から感じる魔力が異常に跳ね上がって気がしてきたが、それは気のせいじゃなくて」

「あぁそうだよ!俺、ダンジョンを何度も討伐してたんだよ!待て、何だダンジョン討伐って!?」

「オレ、スコシダケ、ツカレタ、ヤスンデル、ソレジャアナ」

「おぃいいいいいいいい!お前が原因なのに!?…って言っても、魔力切れか」

「そうだな…私の魔力を殆ど吸い取ってしまった。少しの間眠るとは思う」

「ったく……どういう事だよ、ダンジョン倒すって」

「まぁ、良いじゃないか…そのお陰でお前はレベルが上がってるんだぞ?」

…なんか嬉しくねぇ…

強敵と戦って、強い装備やレベルを上げてなのに、

何で、壁と戦ってたらレベル上がってましたーなんだよ……

「まぁ、良いじゃないか。これで私を倒して出て行ける」

「今、私は魔力が吸われて弱っている。絶好のチャンスじゃないか」

「ほら、早く倒すんだな…」

…それも嬉しくねぇ

「え?」

「弱ったお前倒しても嬉しくねぇ!実力で倒してこそ、勇者だろうが!」

「…元々実力が無かったのに?」

グサッ

「壁を八つ当たりのように殴って」

グサグサッ

「それでレベル上がったからって、弱い者いじめは嫌だ?」

「もうそれ以上俺の心を直殴りするなら、俺この場で自害するけど良いの?」

「嘘だよ、リー、貴方なりの心配だって事は知っている」

「ありがとう」


地味に、可愛い感じ出すのはほんっと女の糞特権だな!




――――――――――――――――――――――――――――――――――――




俺は強くなれた。

もしかしたら、誰よりもかもしれない。

勇者にはレベルキャップが存在しない。それはつまり、どこまでもレベルが上げられる。

偶然とはいえ、エトセトラを倒した俺は強くなれた。

それだけなら良かった。

それだけなら


「なぁ…俺は飯すら食えないのかな…」

俺はそっと呟いた。

「シャム…なぁ、俺はどうしたらいいんだ?」

「…」

答えない。

というより、答えづらそうな顔で笑いをこらえてるようなそんな様子だ


「なぁ、何か言ってくれよ。シャム」

「……ぶふっ、もうダメ!」

「笑ったな!俺のこの不遇な状態を笑ったな!?」

「そりゃ、そうよ。えぇ!笑うわよ!」


スプーンを盛っただけで、折れて!

少し歩けば、床はヤ○チャしやがる…!

確かにダンジョンからは出られた、シャムを倒して出る事には成功した。だが、それと同時に自分が元々弱いせいで力加減が全く分からない。

火の玉を撃てば、隕石が落ちて来る

氷の飛礫を吐けば、その土地は永久凍土になる。

雷を落とせば、半径30km近くは焼け野原

火を少し出して焚火する事すら出来やしない!

氷を出して、かき氷を作る事も!雷を落として、豚を焼き豚にする事も!

もう二度と叶わない。


さて、ここで可笑しいと思うだろうが、何故シャムが居るのかを簡潔に言うと


「魔王様に愛想尽きちゃった☆テヘッ」

と言われた。


何処も可愛くないぞ、シャム。特に年老いたBB…じゃなくて、ゴメンナサイ。お姉さまでした。


ちなみに、あのダンジョンは固体・気体・液体、どんな形にも形成出来る事が出来たから連れて来た。

今では、あそこにダンジョンが無くて積んだ!クソゲー!なんて報告も、ギルドから飛び交うらしく、我ながら申し訳なくは感じる。

だが、コイツが居なければ俺はもっとひどい目に合っている。

今でこそ、形態を変えて俺の剣となっているが、もしコイツを持っていなければこうなる


火の玉を撃てば、世界破滅を起こしている。ちなみに、3回も起こしてる。

…要は、魔力制御装置に近い。俺の魔力をとにかく吸ってもらってる。その代わりに、こいつは生きられる。

ちなみに、世界破滅は俺が元に戻した。賢者が長い年月を持って覚えられると言われる、時空間魔法を使う事すら可能だからだ。

つまり、俺はチート級の勇者になってしまった。

但し、制御不能のチート能力だ。


「はぁ……」

「元気出しなさいって、リー。貴方が望んだ通り強くなれたじゃないの」

「そういう強さじゃないんだよ!」


地面を俺は殴りつける

ビキビキビキビキ

やっべぇ、またやっちまった。地面はひび割れ、どんどん大きくなる。

俺は咄嗟に手をかざし、無詠唱魔法を唱える。

地面は元の形へと戻っていくが、それを笑ってみるシャム


「リー…貴方本当にこの世界壊すのが好きね」

「俺だって好きでやってんじゃねぇー!!」

「あはは、でもいいじゃない。強くなれたんだから ね?」


この糞アマ絶対に殺す…!




終わり…(?)

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