第3話 深夜の逃避行

カーテンの隙間から窓の外を見たが、パッと見た感じでは誰もいなかった。


死体もあるので、どちらにしてもこの部屋に居続けることは出来ない。


着ていた服も割れているだろう。


となると、やることは一つ。

襲ってきた奴の服を俺が着て、逃げるしかない。


指先に火を灯して暗殺者の持ち物を確認する。

黒装束に短剣、そして男の顔は城で見たことがあった。


斥候……。


指示したのがメルキウスの奴なのか、それとも他の誰かなのか。

正直、メルキウスは誰に殺されてもおかしくないと思う。

流石にうちの団の連中がそんな依頼はしないだろうが。

心当たりがありすぎて、誰の依頼なのかわからない。


騎士団のみんなはこれから大丈夫だろうか?

何もできないというのは、本当に辛いな。

ハドリアヌス、頼むぞ……!


ともかく、着替えて逃げよう。

暗殺者の短剣ら騎士団から貰った剣、僅かばかりの金を持って宿を出る。


見る限り深夜なだけあって、外には誰もいなかった。


見つからないように急いで小屋に向かう。


隠秘の魔法を使っているが、精度も持続時間も全く期待出来ないからな。


途中、同じ服装の奴を見かけたが、気付かれないうちに全力で逃げる。


「ぜぇぜぇ、はぁはぁ……」


元の身体と思って走ったら、疲労が半端ではなかった。

筋力もないし、体力もない。

魔力容量もないし、魔力回路も全然ない。

金は二ヶ月暮らせるくらいはあるが、仕事がない。

性格が悪いことで有名だから、王都近隣ではおそらく仕事に就くのも難しいだろう。

いっそ、田舎で教師でもやるか?


まだ新兵の身体にしてくれた方がマシだった……。


そういえば、メルキウスの歳はいくつなんだ?


確実に二◯代ではないよな。

三◯代後半から四◯代と言ったところか。


この姿では実家にも帰れないし、顔が割れてない国に行かないと就職も出来そうにない。


寿命も残り少ないらしいし……。


あぁ、終わってる……。


本当に余生というレベルだな。



ふと思ったが、換魂の法に失敗していたら奴はどうしていたのだろう?

金はそれなりに貯まっているはずだから、田舎あたりで隠居でもしていたのかもな。


だいぶ走ったな。

元の身体なら休み休み走る必要はなかったが、この身体ではそうもいかない。

しかも足が遅いし……。


そんなことを考えているうちに、小屋が見えた。


が、ここで誰にも追跡されていないことを確認する。


探知魔法を発動。


魔力反応なし。


生命反応なし。


魔法による隠秘の痕跡なし。


よし!


小屋の扉はある特定の魔法でないと開かないようにしている。

鍵開けの魔法ではない、この場では使わないであろう魔法。

速度を上げる補助魔法を扉の右下に掛けるという方法でしか開かない。

二回間違えると、三時間は開かない。

時間が経つ前に別の魔法を使うと三時間が上乗せされる。


全く、考えた奴の気が知れないぜ。


扉も壁も特殊な石で作られており、魔法によるコーティングを行なっている。

そのため、破壊することは難しい。


王都でここ以上に安全な場所はないだろう。


素早さ向上の魔法を扉に掛けて……


解錠成功!


さて、解除して入ったは良いが、どうするか。


保存食はあるが、ずっとはいたくないな。

頻繁に出入りするわけにもいかない。



うーむ……。



そういえば!


ホムンクルスを育てていたな!


どうなったんだ?あれは。



ホムンクルスを確認するために地下室に行くと……。



いた。



ルクス・アズライトの姿に限りなく近い人形ひとがたが。

自分の細胞を基にしているから、そうと言えばそうだが、ありがたい。


歳は一六、七歳くらいだろうか?


前に見た時は子供の容だったから、しばらく見ないうちに随分と成長したものだなぁ。


育てたところで、魂がないと動かないと本に書いてあった。

それがわかって大地のエネルギーを吸って勝手に育つようにしてから、ずっと放置していたが、少し希望が見えた。


可能であれば、俺の魂を入れられないだろうか?


メルキウスの身体と本来の自分に似たホムンクルスの身体、どちらも抵抗があるが、選ぶなら後者の方がいい。


成功したら実家に帰って相談しよう。

『ルクス・アズライト』と同じ見た目の人間が近くにいるのはよろしくない。


王都を出て、元の身体に戻る方法を見つけて戻ってくるか、見つからない場合は俺の身体は諦めてメルキウスに引導を渡すか……だな。


その前に『ルクス・アズライト』の口座から金を下ろせたら有り難いな。

元は俺の働いた金だし、メルキウスは許さなくても天は許してくれるだろう。

ホムンクルスの事が書いてある本は古文書だが、読めないことはない。

資料と照らし合わせてだから、解読に時間が掛かるだろうが、食料もあるし、寝床もあるし、時間もある。


何より誰も入って来ない。



このホムンクルスに全てを賭けよう。

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