世界で一番『消したい』遊び

@arason

世界で一番『消したい』遊び

『花いちもんめ』

 古くから伝わる、子供遊びの一つ。

 端的に言うと二組に分かれて歌を歌いながら人を奪い合うゲーム。


『花いちもんめ』の『いちもんめ』は一匁。かつてのお金の単位だ。

『花』は子供とか、女性の隠語だという説もあるらしい。


 江戸時代にお金のない農村が、身売り業者に出す子を相談して出して、それを業者に安く買いたたかれた。


 業者は安く買うことができたから、商談に「勝って嬉しい『花一匁』」

 農民は安く買い取られてしまったので「負けて悔しい『花一匁』」


 こんな話を分からずに笑顔で歌い、

『人を奪い合う』ということを理解せずに遊ぶ……

 

 無知な子供は、無意識に酷いことをするものだ。



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「「かーってうれしい『花いちもんめ』!」」


「「まけーてくやしい『花いちもんめ』!」」


 馬鹿みたいに大きく、元気な声でみんなが歌うこの歌が、わたしは嫌いだ。


「「あのこがほしいっ」」


「「このこがほしいっ」」


「「そうだんしーよう」」


「「そーしよう」」


 そこまで終わると列のみんなで集まって、相手チームの子を一人選ぶ。


「たっくんにしようぜー」

「みーちゃんがいいって!つよいから!」


 大抵は、クラスの中でも人気者順に選ばれていくし、選ぶときに話し合う時の中心になっているのも、クラスの人気者だ。


「「きーまった!!」」


 向こうの組は誰にするか決まったようだ。たぶん、「たっくん」の友達の「ひびきくん」かいつも「みーちゃん」の隣にいる「カレンちゃん」のどっちかだろう。


「やべーよ、こっちもはやくきめないと!」

「ぜーったい、たっくんのほうが、みーちゃんよりつよいだろ!たっくんできまりな!」

「えー」

「きーまった!!」

「ちょっとかってに…」


 ひびきくんが無理やり通したようだ。若干カレンちゃんのほっぺが赤く膨れている。


 再度列に並んで選んだ人を言っていく。

「「ひーびきくんがほっしいー」」


「「たーくみくんがほっしいー」」


 向こうの列はみんな揃ってひびきくんを呼んでいたが、こっちの列は真ん中にいるひびきくんと、それにつられた数人だけが呼んでいる。少し離れた所にいるカレンちゃんはずっとほっぺを膨らましたまんまだ。


 互いに選んだ子を呼び終わると、列の中の一人が出て行ってじゃんけんをする。こっちから出ていくのはもちろんひびきくんで、あっちから出てくるのはたくみくんだ。


「「さいしょはグー! じゃんけん、ポン!!」」


 向こうから歓声が上がる。こっちは「まけたぁー!」と一際目立つように叫んでいるひびきくんと、「マジかよー」「まけんなよー!」と騒ぐひびきくんと手を繋いでいた子と、その子と手を繋いでいた子。カレンちゃんは少しだけほっぺの膨れが引いていた。


 そうしてひびきくんが向こうに行くとまた最初のように並んで、もう一度始めからやり直すのだ。


「「かーってうれしい『花いちもんめ』!」」


「「まけーてくやしい『花いちもんめ』!」」


 増えた分の子だけ長くなった向こうの列を見ながら、わたしは一番端っこでうらやましそうにため息をつく。


 わたしも、はやくよばれないかな。


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 わたしは少しだけ、他の子より賢いのかもしれない。

 そういえば、「さんしゃめんだん」の時にこの前描いた絵を指さしながら先生がお母さんに、

「この子はそうとう賢いかもしれません。この年齢で横向きでモノを捉えることは普通出来ないんですよ。」

 と、言っていた。奥の方に、もう一人、横向きと前向きが混ざったような絵を描いている子がいたから、本当にそうだかわからないけど。


 先生にそれを言ったら、「あれはまた……」と言葉を濁された。

 だから、『賢い』っていうのはそんなには信じていない。


 けれど、ときどき、わたしがみんなとは少し違うかもしれないと思うことがある。

 何となくみんなと馴染めないような気がするのだ。


 どうやったら、一緒に遊んでもらえるのか、わからなくなる時がある。


 どうやったら、たくみくんや、ひびきくんみたいにみんなの中心に入れるのかわからない。


 どんな気持ちで、隣の子と手を繋いだらいいのか、今もわからない。



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 今日が、たまたまだったのかわからない。

 今までどうだったのかはあまり覚えていない。


 あの、大嫌いな歌がいつもより長く感じた。


 いつもよりたくさん、じゃんけんをしているのを見ていた。


 なぜかわからないが、こっちの列ばかりが負けていた。

 


 カレンちゃんがじゃんけんに負けて、取られていった。

 ひびきくんの隣にいた子がじゃんけんに負けて、その隣にいた子が取られていった。

 何回に一回かはこっちの列も勝っていたけど、すぐに勝った子もとられていった。

 

 何回も勝っている向こうの列は、人気者ばかりが集まっていて、とても楽しそうだった。

 何回も負けているこっちの列は、負けて向こうに行く子が、一番楽しそうだった。

 

 何度も、自分の名前が呼ばれて欲しいと願った。

 早く、向こうの列に行きたかった。

 けれど、いつまでたっても呼ばれなかった。それが、とてもみじめだった。


 今じゃんけんしている子が負けたら、わたし一人になってしまう。


「「さいしょはグー! じゃんけん、ポン!!」」


 お願いだから、わたしを一人にしないで

 お願いだから、じゃんけんに勝って


 向こうから歓声があがる。

 さっきまで隣にいた子が小走りで向こうの列に並んだ。


 とうとう、わたしは一人ぼっちになってしまった。

 それなのに、なのか、それだから、なのか

 『花いちもんめ』は終わらない。

 最後の一人が負けるまで、続くのだ。



「「「かーってうれしい『花いちもんめ』!」」」


「まけーてくやしい『花いちもんめ』」


 初めて、じゃんけんで負けたいと思った。

 負けてしまえば、この遊びは終わりだ。

 あとは、じゃんけんするだけ。それだけで、こんな遊びが終わる。


「「「あのこがほしいっ!」」」


「このこがほしい」


 あれ?このあとは……


「「そうだんしーよう」」


「そーしよう」


 向こうはすぐに「きーまった」と叫んできた。当たり前だ。わたししかいないのだから。

 

 でもわたしは?


 わたしは誰を選べば良い?

 好きな人を選べばいい?誰も、わたしのことを選んでくれなかったのに……


 一番の人気者?誰が一番人気なのかもよくわからないのに?


 それに、もしわたしが勝ったら、選んだ子はあの楽しそうな列から一人抜け出して、わたしとたった二人にならなければならない。


 そんなことをして、嫌われないだろうか?


 向こうからは「まだー」、「はやくしろよー」と急かす声が聞こえる。


 みんなだったら、誰を選ぶのかな。

 みんなだったら、ためらわないで、選べるのかな。

 

 わたしには、選び方がわからない。


 だんだん向こうの声がいら立ってきた。

 急かされたわたしは答える

 「きーまった」

 頭が真っ白で、誰を呼んだのかはよくわからない。

 気が付いたらじゃんけんの掛け声が……


 「「じゃんけん」」


 神様、どうか、負けさせてください。

 初めて、自分が負けたいと願った気がする。


 「「ポン!」」


 頭も、心も、止まった。

 

 わたしのこわばったパー


 相手の元気いっぱいのグー


 わたしの周りには、誰も助けてくれる人なんかいなかった。

 わたしは、犠牲者を選んでしまったのだ。


「えーっ」

「うわーっ」

「マジかー」

「まけたのー」


 向こうから残念そうな声が聞こえる。わたしの方に、一人歩いてきて、無言で左手を繋いだ。どんな顔だったのか、とてもじゃないけど確かめられなかった。


 左手に気まずさを覚えながらも、次のじゃんけんはわたしがしなくて済むことにほっとした。


 この子なら、迷わず選べるだろうから。

 この子になら、選ばれてもいいと思える人がいるから。


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完全蛇足のあとがき


絶対にはじめまして。拙い文章を読んでくださりありがとうございます。

これが、私が世間に出す初めての文章です。どうだったでしょうか? 


 この話は、私の小さい頃の実体験を脚色して作ったものです。

 今でも花いちもんめの歌を聞くだけで胸が痛みます。


 これを読んでいただいた方、『花いちもんめ』、どう思いますか。

 何か心に残るところがあれば幸いです。

 

 そして、もし、これを読んで『花いちもんめ』を無くしたいと思った方がいたら、

 

 自分の思ったことをSNSなどに広めてもらえれば


本当に世界から消し去れるかもしれません。


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