寛政捕物夜話(第十七夜・ふたなりの女)

藤英二

ふたなりの女(その1)

ある昼下がり、お新が吉原の引手茶屋に三味線弾きの芸者として呼ばれて家を出るのを見届けた政五郎。「お茶でもどうだい」と、半身不随のからだをいざって台所から茶の道具を持ってきた。

これは、めったにないことだ。

「『ふたなり』って、知ってるよな?」

お茶を注ぎながら、政五郎は妙なことをいう。

「半分女で、半分男の半陰陽。これで『ふたなり』でしょう?」

「そうだ。・・・その『ふたなり』の見せ物を今夜見に行ってもらいたい」

政五郎は涼しい顔でいった。

「なにね、昔の太い客が、どうしてもって頼みに来てさ。あ、いや、『ふたなり』を見るのが目的ではない。そこに呼ぶ客のあとをつけてほしい、というのが頼みだ」

その太い客というのは、小間物屋の客としてなのか、政五郎が蝮と異名をとった目明しのころの客なのか、判然としないが、養父に頼まれれば断る訳にもいかない。

―日暮れとともに、浮多郎は柳橋たもとの料亭へ出かけた。

そこの、神田川に面した障子戸を開け放った二階の奥座敷で、でっぷりと太った山岸屋の伝兵衛に会った。

なんでも、この界隈で大きな廻船問屋をやっているという。

その他に、伝兵衛の仲間だか顧客だか、五人ほどのやはり太った商人が芸者をはべらせて宴会がはじまった。

・・・やがて、雲を突くような大男が、遅れたのを詫びながらのっそりと入ってきた。

場所柄、はじめは相撲取りかと思ったが、どうもそうではない。

頭に頭巾のような鬘をのせているのが見え見えなので、『ははあ、こいつは坊主だな』と、浮多郎にはすぐ分かった。

この坊主は生臭なのか、出された名物の川魚料理を平らげると、次は鹿と熊の珍味を右から左に口へ放り込んで食べる合間に、芸者が注ぐ酒をぐびぐびと呑む。

・・・伝兵衛がしきりに目配せしたので、『つける』のは、この破戒僧だと分かった。

料理が出そろったころ、番頭が障子戸を閉め、燭台の明かりを消して回り、床の間の前に、白絹の布団を敷き、その一角に百目蝋燭を灯した。

・・・白絹の寝間着を着た妖艶な女が、すっと現れて横になった。

次に、やはり白絹の寝間着すがたの、なで肩の白面の優男が女の後ろに現れ、女の帯をゆっくりと解き、小ぶりな胸をもみしだいた。

男の指は、女の尻を這いまわり、やがて寝間着の裾をまくりあげ、陰部を蝋燭の光にさらした。

「おお」と浮多郎も入れた七人の男たちは、どよめきの声をあげた。

女の臍下三寸に、立派な陽根がそそり立ち、その下には濡れそぼった秘門が縦一文字に走っていたからだ。

その後は、女が男の役をやり、本来の女の役をやりを繰り返し、からみあう二匹の大蛇のように、汗みどろになった男と女は、男女の秘義を延々と演じた。

・・・横目で見やると、なぜか破戒僧は怯え、酒の醒めた顔は紙のように白かった。

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