一章 リア充後輩女子に運命の相手認定されたんですが
09『赤い石のペンダント』
夢を見ていた。十年前の夢を——。
ふと気が付けば、ジリリリリッと
意識
すると、ぴたと静寂が訪れて、
俺はうんともすんとも言わなくなった目覚まし時計を覗き込んだ。
「は…………?」
時間を確認して、思わず間抜けな声が出てしまう。
目を
やはり時刻は午前八時を優に過ぎていた。
「寝過ごしたあああああああ——ッ!」
まごうことなき寝坊である。
俺は慌ててベッドから飛び起きて、すぐさま
どうやら、久々に疲れていたせいで泥のように眠っていたらしい。
目覚まし時計が聞こえないのだからよっぽどだ。
ていうか、二日連続はまじで洒落になんねぇぞ……。
いつも通学に使っている愛用の自転車も
昨日、修理に行く時間もなかったし、今日も今日とて寝起きダッシュを余儀なくされていた。
家を出てしばらく走っていると、河川敷が見えてくる。
普段は制服姿がちらほらと見える橋も、
この時間だとママチャリを漕ぐママさんやスーツ姿のサラリーマンが目立つ。
俺はママチャリすら追い抜く勢いで橋を駆け抜け、
やがて桜が舞う並木坂までやってきた。
ここを越えればあとは一直線。
この調子ならなんとか間に合うだろう。
しかし、そう簡単にはいかない。
そこそこ急な坂にスタミナがじわじわと奪われて、スピードが落ちていく。
それでもヘトヘトになりながら必死に走っているときだった。
「ん……?」
ふと、前方に
うちの学校の制服だ。
気分でも悪いのだろうか。
「どうした、大丈夫か?」
「あっ…………」
俺はその子に駆け寄って声を掛けた。
そしてこちらを振り返ったのは、胸元に緑のリボンを付けた一年の女子生徒。
うちの制服だったからつい声を掛けてしまったが、
その可憐な容姿に少しばかり怖気づいてしまう。
それでもなんとか冷静を装った。
「気分でも悪いのか?」
言うと、その子はぽかんと口を開けたまま呆けている。
返答がないのを不思議に思って、はてと首を傾げていると、
ふと気付いてしまった。
はっ、まさか不審者だと思われてる!?
昨日のこともあるし、あながち本気でありえる……。
お、落ち着け、まずここは害意がないことを、潔白であることを証明する必要がある。
怪しくないよー、か。
いや超怪しいな俺……。
大体怪しくないよって言ってるヤツが怪しくないわけないだろ。
思わずあたふたしながら、対応に困っていると、
はっと、我に返った女子生徒が口を開いた。
「あ、い、いえ、そのっ……落とし物をしてしまって……」
「……あぁ、落とし物か」
そうか、気分が悪いわけじゃなかったんだな。
まぁなんでもないのはいいことだけど、これ流れ的に手伝わないといけないよなぁ……。
「それで、なに落としたんだ? 一緒に探すよ」
「そ、そんな悪いですよっ! もうこんな時間ですし」
そうは言うものの、一度話しかけてしまった以上、
手伝ってあげないとガッカリするよなぁ。
それに、この子が遅刻するってわかってて俺だけ間に合うのもなんだか気分が悪い。
あとから罪悪感を覚えるようならいっそ遅刻したほうがいいだろう。
後々めんどくさいのはごめんだ。
「いいよ、早いとこ見つけようぜ」
「でも……」
「あー、いいから早く教えてくれ。二人で探した方が効率的だろ」
あっ、少し強く言い過ぎたか。
思わず語気が強くなってしまったことを反省しつつ、
ちらと、その子に視線をやった。
と、彼女は小さく頷いた。
「で、では、お願いします。えっと、私が落としたのはこれくらいの大きさの、赤い石が付いたペンダントで——」
「赤い石のペンダント……?」
「はい。さっきここでなくしたことに気付きました」
「わ、わかった。赤い石のペンダント、な……」
確認してから、俺は地面に視線を落としてペンダントを探し始める。
赤い石のペンダント——。
妙に聞き覚えのある特徴。
いや、まさかな……。
そんなはずはないだろう。
思えば、赤い石の首飾りをアイツに贈った記憶は定かではないが、
俺の手元にないということはおそらくアイツに——水篠に贈ったんだろう。
あのとき、アイツはどんな反応をしただろうか。
どんな顔をしていたか。
俺は、そのときのことがよく思い出せなかった——。
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