第9ー3話 手のつけられない不良共
温水の流れる音が室内で奏でられ、美女達が楽園を満喫している。
素肌を見せる事への抵抗感は既になくなり、皆でスライダーや流れるプールを堪能していた。
やがて数時間が経ち、空軍総司令にまでなった春花が浮き輪の上で眠りについた事から鵜乱を始め皆が服を着始めた。
束の間の極楽は、長い年月戦い続けた虎白と宰相らを癒やした。
白くて美しい地肌を鮮やかな着物で包んだ宰相らは、夕飯の支度をするために台所へ向かう者や酒を飲み始める者など様々であった。
虎白が建設していた温水プールは宰相らから大盛況となったが、面倒なのは巨大なプールの清掃作業だ。
しかしこの大仕事を任せたのは、民間の業者ではなくエヴァの特殊部隊だった。
集められたジェイク達は、何事かと虎白の顔を見ている。
「というわけで、この場所は俺達だけの施設で民には別の娯楽施設がある。 清掃もお前らに任せる事にした」
「ちょっと待ってくれよ俺達は特殊部隊だぜ!?」
「エヴァがお前らなら清掃してくれるって言ってたぞ」
エヴァが言うなら仕方ない。
ジェイクはそう、心の中で言い聞かせると渋々清掃を受け入れた。
しかし彼らは元は手のつけられない不良達だ。
虎白からの清掃命令に従順に従うほど、お利口ではなかった。
夕飯の支度が進み、酒を飲みながら虎白が数時間後に温水プールの様子を見に行くと、眼の前の光景に絶句している。
施設の扉を開けた途端に、発達した嗅覚を刺激した香ばしい香りは温水の匂いではない。
しかしプールからは何か液体が流れ続け、ジェイクらは清掃どころかスライダーなどで大はしゃぎしているではないか。
「て、てめえら何やってるんだ!?」
「おーうフォックス!! あんたも入っていくか? 一度やってみたかったんだよなあ!! ビールプール!!」
室内に漂う香ばしい香りの正体は、ビールであった。
温水を抜いて、清掃を終えると白陸軍の食料庫から盗んできた大量のビールを盗んでプールへ流し込んだのだ。
屈強な肉体を更に勇ましく見せる様に入っている
今にも怒りが爆発しそうな虎白の肩に、ビールまみれのまま腕を回すと口づけを求めている。
女にすら見せる虎白に欲情したのか、着物に手を入れて胸元を触っているではないか。
「なんだ胸小せえなあ・・・エブなんてそりゃあもう・・・」
ホーマーがエヴァの豊満な胸を思い浮かべて興奮していた時だ。
顔面に激痛が走り吹き飛ぶと、再びビールプールの中へ沈んだ。
虎白が振り抜いた拳によって吹き飛んだホーマーを見た不良共は、続々とプールから這い上がってくると、拳をばきばきと鳴らしている。
「おおやんのかあ!? この野郎・・・」
「てめえら。 作物を粗末に扱う奴らは許さねえ・・・」
虎白を始めとする狐の神族は、作物の神であり本来は人々の農業が豊作になる様に見守っている。
そんな虎白が建設した施設の中で麦の液体を粗末に扱ったジェイクらは、日頃は温厚な皇帝の逆鱗に触れたのだ。
今にも第八感を放とうとしている虎白の背後からは、白く沸き立つもやが虹色に輝いている。
そして直後に第八感の時間停止を行うのが、日頃の虎白だが今回は怒りのあまりとてつもない威圧感を出したまま不良共へ近づいていった。
殴り合い上等だという表情で、拳を握っている不良共は我先に虎白へと殴りかかったのだ。
「お前らやっちまえ!! 皇帝だからって調子乗るなこらあ!! 死ねや鞍馬ー!!!!」
エヴァが心底信頼するジェイク達は、三十人あまりで虎白へ殺到すると激しい喧嘩を始めた。
しかし時間すら停止させて動く強さは尋常ではなく、おまけには振り抜く拳の重さも、巨体を空中で一回転させてしまう皇国仕込みの体術まで会得している虎白には敵うことはなかった。
僅か数分で全滅した酔っぱらい共は、気絶している者も大勢いたがジェイクだけは口から血を流していたが倒れていない。
「や、やるじゃねえか・・・一度本気で喧嘩してみたかったんだよ・・・」
「てめえらなあ。 喧嘩ならいつでもしてやるが、これは二度とするなよ?」
「ああ、誓うよビールプールはもうやらねえ・・・」
ビールプールはという言葉を気にしながらも、虎白はジェイクと喧嘩の決着をつけるために再び拳を握った。
もはや一対一になった男達の間に必要なのは拳だけで、十分というわけだ。
背中から湧き出ていた虹色の煙を体内へ戻すと、巨体へと殴りかかった。
しかし浴びる様に酒を飲んでいるジェイクに、虎白の渾身の一撃は防げるはずもなく盛大に吹き飛ぶとプールへと沈んでいった。
「ったくてめえらは。 このビール全て飲み干すまでここから出るなよ」
しばらくすると気絶から回復した不良共は、割れそうなほどの頭痛に表情を歪めながら弓を構える皇国武士の前でビールを飲み続けた。
城へ戻った虎白から話しを聞いたエヴァは、落胆していた。
だがこの不良共はきっと懲りていないだろう。
ビールで泳ぐ事は止めただけにすぎないはずだ。
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