第9ー2話 最高の思い出づくり

 長い年月、平和のために戦争を繰り返すという皮肉の中を生きた虎白は、今までにないほどの平穏を手にしていた。



 宰相という位にまで出世した、美しき側近達を次は妻とするべく彼女らの女としての魅力を受け入れていく毎日を送っている。



 そんな贅沢な虎白は、前々から進めていたある計画があった。



 計画は既に完成にまで辿り着き、残すは後の妻となる宰相達に見せる事だけだ。



 白陸の帝都にある本城の巨大な城内で、建設されたとあるものが完成したと聞きつけた虎白は得意げな表情のまま施設内へと入っていった。



 作業員達が自慢の施設の完成を虎白に見せびらかす様に、汗を拭っている。



「どうですか陛下?」

「これはすげえな。 よくやってくれた感謝するぞ」

「宰相様と入られるのですか? 羨ましいかぎりです。 あの美しき宰相様の体が・・・」



 そう浮かれている作業員に礼を言った虎白の瞳に写っているのは、巨大な温水プールではないか。



 近頃戦闘ばかりの日々に疲れている宰相達に、せめてもの息抜きとして建設していた巨大施設はまるで南国の楽園を思いかべるほどの仕上がりとなっている。



 感無量といった表情で早速、竹子達を呼び出して温水プールを満喫しようとしていた。



 集まった宰相らは驚きのあまり、言葉を失っている。



「どうだみんな!! さあ着替えて入ろうぜ!!」



 あまりに突然の事に言葉を失う宰相だったが、海軍の総督である琴と尚香は着物を脱ぎ捨てて下着のまま飛び込んだ。



 温水プールに興奮した海軍の二人は、着替える事すらも忘れて泳いでいる。



 虎白はすっかり準備を整えて水着のまま、優雅に泳いでいるが宰相らは唖然としてその場を動かない。



 彼女らの様子に気がついた虎白が、水面から出てくると水を体からはらって近づいてきた。



「お前らの水着も用意させてあるから、好きな水着を着れば良い」

「ちょ、ちょっとその・・・恥ずかしいよお・・・」



 常日頃から着物を着ているか、白陸軍の制服を着ている竹子ら宰相には露出の多い水着には抵抗があった。



 よくよく考えれば、戦闘続きで宰相達の間には娯楽を楽しむ機会もさほど多くなかったのだ。



 虎白が皇国武士らと開催する祭りなど、数少ない娯楽を楽しんでは戦闘の日々。



 水着に着替えて、暖かい水の中を優雅に泳ぐ事なんてなかったわけだ。



 困惑する竹子らを前に、虎白は下着姿ではしゃいでいる琴をプールから出すと水着に着替えさせた。



 数分して現れた琴の水着姿は、下着と何が変わったのかさほどわからないほど露出の多い姿だった。



 細い体型から覗かせる白くて綺麗な肌に、胸元や下腹部に僅かに巻き付けられている布切れの範囲の狭さに竹子らは思わず赤面していた。



「なんだあ琴や尚香は喜んでいるのになあ・・・やっぱりお前ら恥ずかしいかあ・・・」



 赤面して絶句する竹子を始めとする、夜叉子や妹の優子の様子を見た虎白は少し残念そうにしていた。



 するとビキニを着てプールへと飛び込んでいった者らがいた。



 楽しそうに大声を出しているのは、エヴァと天才技術者のサラではないか。



 それに続くかの様に魔呂や、新参のウィルシュタインらまで飛び込んだ。



 ゴーグルを装着してコンプレックスの右目を隠しているエヴァは、上機嫌で泳いでいる。



「最高じゃん虎白ー!! ありがとうねー!!」

「ねえエヴァエヴァ!! あれスライダーだよね? うんうん!!」



 琴の水着よりも遥かに際どい水着を着ている、エヴァとサラに関してはほとんど裸とも言える。



 しかし彼女らはそんな事を気にもせずに、巨大なスライダーへと駆け上っていった。



 まさに文化の違いというものだ。



 やがてスライダーから滑り落ちてくるエヴァとサラは、大騒ぎだ。



 琴や魔呂達も負けじとスライダーから滑り降りてきた。



 遂にはユーリやエリアナまで色っぽい水着に着替えてくると、我先に飛び込んでいった。



 今だに着物を着ているのは、竹子と優子に夜叉子とお初だけとなった。



 甲斐まで水着に着替えて泳いでいるのだ。



「ど、どうしよ・・・」

「もーう着替えましょう姉上!! こうなったら脱ぐしかありませんよ」

「は、恥ずかしい・・・み、みんな胸も大きいし・・・」




 こうしてやむなく竹子らも水着に着替えると、恥ずかしそうに赤面しながら水中へと体を入れた。



 スライダーの頂上から、水着姿の宰相達を見ている虎白は満足げにうなずいた。



 それを着慣れない水着姿の恋華が見ている。



「随分と上手くやったのね」

「一体感を生んだつもりだ。 みんな恥ずかしかったろうが、これで家族としてさらに絆が深まるだろう」

「それにしてもこの姿はあまりに・・・」

「似合っているぞ恋華」




 露出の多い水着に困惑する恋華も、胸元や下腹部の布面積を気にしている。



 すると恋華をお姫様抱っこして、突如スライダーに飛び乗った。



 これにはさすがの恋華も驚き、瞳孔を開いている。



 ふと顔を上げると、自身の体をがっしりと掴んで真剣な眼差しをしたままスライダーを下っている夫の顔があった。



 ただスライダーを滑っているにすぎないが、恋華には夫の初めて見る表情に胸がときめいていた。



「こ、こんなに素敵だったかしら・・・」

「何だって!? おお、もう落ちるぞ!! 俺に掴まれ!!」

「か、格好いい・・・」




 二柱は激しく水中へと沈み込んだ。



 その間も恋華の手を握っている虎白は、冷静に水面へと彼女を導いた。



 やがて水面に顔を覗かせる頃には、恋華の表情は以前とはすっかり変わっていた。



 愛する夫に心底惚れ込んでいる女のそれになっているのだった。

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