第8ー16話 不良を極めし者

 薄暗い景色が、徐々に明るくなり朝焼けが顔を覗かせる。



小鳥のさえずりと眩い光が、一日の始まりを象徴するのだがこの場所だけは違う。



 暗闇が辺りを包んでいる頃から、閃光を放ち続ける秘密基地ではエヴァ達による懸命な救出作戦が行われていた。



 待ち構えていた正体不明の守備隊を前に、苦戦するエヴァ達は劣勢の中で活路を模索している。



 絶えず飛び交う銃弾に身を隠しながら、左右非対称の美しい瞳を動かしていた。



「ねえジェイ・・・うちらが盾になれば、あの子達は撃たれないかな?」

「たったの三十でこの数の半獣族の盾にはなれねえだろ」




 巨体を遮蔽物に隠すジェイクは、戦死すら覚悟し始めたエヴァの言葉を否定した。



 自らを犠牲にしても、半獣族は助からない。



 仮にこの場を逃れられても、生きる希望を持っていない半獣族は逃げ遅れて捕まってしまうのは明白。



 つまりエヴァ達が同行しなくてはならないというわけだ。



 しかし八方塞がりとなったこの状況で、具体的な脱出案が浮かばないエヴァとジェイクはただ反撃だけを続けていた。



 そんな時、ホーマーが銃撃を交わしながら滑り込んでくるといつもの様に楽観的な口調で話し始めた。



「おいおい聞け聞け!! あれよお・・・燃料庫じゃねえか? ぶっ壊せば、半獣族が驚いて走り始めるんじぇねえか!?」




 ホーマーが指差す先には、巨大な燃料庫らしきものがあった。



その燃料庫を破壊すれば、大きな爆発音が一帯に響き渡り半獣族が防衛本能から走り出すと考えたわけだ。



 敵の守備隊は強く、全滅させるのは容易ではないと考えたエヴァはホーマーの大胆な作戦に同意した。



 そうと決まれば、ホーマーは相棒のジェイクを連れて燃料庫の破壊に向かった。



「ごめんね虎白・・・やっぱうちらに静かに作戦をこなす事はできないみたい・・・」



 そう小さくつぶやいて笑ったエヴァは、仲間達に作戦を伝えた。



一方で命運を託されたジェイクとホーマーは、仲間の援護を受けながら建物の中へ入ると燃料庫までの道を探し始めた。



 道中で出くわした守備隊を一発で無力化すると、さらに足を急がせた。



「なあ覚えてるか?」

「言われなくても思い出しているよ。 昔警察署の中を気が付かれない様に探検した時だろ?」

「ああ、あれは面白かったなあ!! 最後は逮捕されちまったけどな!!」




 不良という言葉が誰よりも似合うこの馬鹿者は、天上界に来るまでに何度警察の世話になった事か。



 しかし今ではそんな常軌を逸した日常のおかげか、今の様な修羅場でもどこか楽しくなってしまうのだ。



 かつての奇行を思い出した親友達は、笑いながらも出くわす敵を一発で無力化していく。



 釈放後に入隊した軍隊での経験が、さらに彼らをたくましく育てたというわけだ。



「なあ、あの扉が怪しいと思わねえ?」

「頑丈な鍵だし、間違いねえよ!! おいホーマー昔盗みに入った時を思い出せ!!」

「いやあ、連続窃盗のおかげで鍵開けるの上手くなったよ」



 この馬鹿者達は、思い浮かぶ犯罪は一通りしたわけだ。



鍵穴を覗き込んだホーマーは、器用に針金を差し込むと解錠を試みた。



 その間も迫る敵に警戒しているジェイクは、昔の不良時代を思い浮かべて笑っている。



「お、開いた!!」

「お前すげえな!! 銀行強盗も行けたかもな!!」

「違いねえ!! やっておけばよかったなあ!!」



 室内へ入った強盗志望者共は、手当たり次第に爆薬を設置すると足早に部屋を後にした。



 間もなく大爆発が起きると考えると、この二人は逃走しているというのに笑えて仕方がなかった。



 今まで散々他人に迷惑をかけてきたジェイクとホーマーが、大勢の命を救うのだと考えると嬉しくてたまらなかったのだ。



 建物から飛び出した二人は、エヴァの元へ滑り込むと爆発を待った。



「やってやったぜエブ!!」

「後は半獣族が驚いて逃げてくれるのを信じるしかないね」

「さあ頼むぜー!! 全力で走ってくれ!!」

「じゃあみんなは、半獣族が走り始めたら一斉に援護射撃ね」




 もはやこれしか方法はない。



エヴァはそう言い聞かせて、騒ぎを起こして怒る虎白の顔を思い浮かべては謝っている。



 そしてその時が来た。



 内蔵にまで響き渡るほどの大爆発が巻き起こると、建物から半獣族達が一斉に飛び出してきたのだ。



 作戦の成功に歓喜するよりも前に一斉銃撃を始めたエヴァ達と、すれ違う様に秘密基地出口へ疾走している。



 やがてエヴァ達は逃げていく半獣族に背中を向けながら、銃撃を続けて出口へと向かった。



 最後の仲間が出口へ差し掛かると、煙幕を投げて守備隊の視界を遮断した。



「やってやったぜ!!!!」

「まだ終わってないよ!! 半獣族を誘導しないと!! きっと虎白達の攻撃が始まっているから、敵の防御は手薄!!」




 とはいえ混乱する半獣族をどの様に誘導するのか。



するとエヴァは、腰元に装備していたある物を取り出すと仲間達も同じ行動をとった。



 筒状の物を取り出した一同は、一斉にそれをへし折った。



 そして道中で強奪したバスに乗り込むと、窓を全開に開けて爆走したのだ。



「さあこっちだよ!! 美味しい匂いがするでしょ!!」



 この筒状の物体は、天才開発者であるサラが半獣族のために作った秘密兵器だ。



 へし折られた筒からは、半獣族の嗅覚を刺激する匂いが放たれている。



 匂いを嗅いだ半獣族はたちまち、筒を目指して追いかけてくるというわけだ。



 実験のために宮衛党のメルキータやツンドラの民達で試したが、効果は抜群だった。



 こうして爆走する半獣族を引き連れて、バスの強奪者達は見事に難題である虎白の悩みの種を除去してみせたのだった。






 

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