第7ー4話 大公国の英雄

 何かに挑戦する上で必ずと言って良いほどに必要なのは信念である。



大いなる挑戦を行えば、当然ながら賛同してくれる者もいれば、批判する者はいる。



 時に身内にまで批判される事もあるだろうが、それでも強い信念を持って他者を論破し、自らが先頭に立って道を切り開かなくてはならない事もあるのだ。



 何かを成し遂げるにあたって一番してはならない事は他責思考である。



挑戦するからには失敗もするだろうが、失敗を第三者の責任だと思っている者は再挑戦は叶わないだろう。



 人を巻き込んで、挑戦するというのはそれだけ大いなる事である。



 スタシアの平原で対峙するスタシア、白陸連合軍とルーシー大公国軍は、不気味な静寂と息苦しいほどの殺気に包まれていた。



「案外落ち着いて睨み合えるんだな」

「虎白様、やつらの殺気はティーノム帝国の者らとは比べ物になりません」

「そうだな。 さて、何してくるのかな」




 主に騎兵を中心に編成されているルーシー軍であったが、隊列を割って出てくる様に何かが先頭へと運ばれてきた。



 鋭い瞳を細めた虎白が見たのは、大砲ではないか。



目を見開いた虎白は全軍に後退を命じようとした時だ。



 白陸軍の将校が声を上げると、数名の兵士らが背中に背負っていた気色の悪い半円状の物体を地面に置いたのだ。



 まるで生きているかの様に、くるくると筒を動かしている物体は動く事によって気色悪さを増している。



 焦る虎白は後退命令を出そうとしたが、白陸軍の将校は皇帝に向かって待ったをかけたのだ。



「陛下ご安心ください。 こちらはサラ様の発明品です」




 将校がそう話しているやいなや、ルーシー陣営から怒号が聞こえると直ぐに、大砲が一斉に火を吹いたのだ。



虎白は第六感を発動して、砲弾でも斬ってやろうかと名刀に手を当てたその時だ。



 気色の悪い物体が動きを止めると、飛来する砲弾を空中で撃ち落としたではないか。



 これには驚く虎白をよそに、白陸兵の歓声が響き渡った。



「サラ様の発明が実戦でも成果を出したぞー!!!!」



 たまらず虎白は歓喜を上げる将校の制服を掴むと、自身の元へ引き寄せた。



謎の物体について説明を求めると、将校は待ってましたと言わんばかりに興奮気味に赤面しながら話しを始めた。



 サラの発明品があれば、砲弾による致傷率が格段に下がると話す将校は気色悪い物体の説明を始めた。



「実は私はサラ様の開発部の将校でして、あれは動体検知をして飛来物を撃ち落とす仕組みになってましてね、弾丸の発射速度は検知した爆発物を解析して空中で爆発して周囲の生命反応に危害の及ばない距離を計算してですね・・・」




 とてつもない早口で話し続けるサラの兵器開発部の将校は、主の彼女に似て変わり者だ。



もうわかったと将校を落ち着かせた虎白は、空中で砕け散る砲弾の花火を眺めていた。



 ルーシーが満を持して運んできた大砲は意味を成す事もなく、空中で花火となって消えたのだ。



戦場で響き渡る白陸軍の歓声と硝煙が渦巻く平原で事態は急変する。



 硝煙を割って出てきたのは馬にまたがる金髪をなびかせる白人の女ではないか。



手にはサーベルを持ち、鬼の形相で白陸軍の隊列へ怯える事もなく突入した彼女はたったの一騎ではないか。



 驚いた白陸兵らが、女を取り押さえるために接近するがまるで相手にならない。



次々に吹き飛ばされる白陸兵はちりの様ではないか。



 騒然となる戦場では引き続き、飛来物が空中で撃墜されては硝煙を充満させている。



もはやルーシー軍の姿が硝煙で見えなくなるまで放たれ続けた、飛来物撃墜装置はサラの発明品だ。



 そして硝煙渦巻く戦場で白陸軍の陣地へと、単騎で突入したルーシーの女戦士は常軌を逸していた。



なおも白陸兵を蹴散らし続けて、虎白を視界に捉えると総大将と理解したのか、一目散に迫ってきたのだ。



 皇帝を守るために多くの白陸兵が立ちはだかっては、蹴散らされている様子を見た虎白は名刀を両手に持って馬上から飛びかかった。



 だが次の瞬間。



 女戦士は虎白の名刀をサーベルで受け止めると、拳を振り抜いたのだ。



吹き飛ばされた虎白は顔から純白の血を流している。



「や、やるな・・・」

「虎白様!!!! 者共!! 討ち取れ!!」



 莉久の一声で皇国武士らが、襲いかかった。



 すると女戦士は絶叫している。



 突然の絶叫に驚いた武士らは何事かと目を見開いていると、背後から白陸兵の悲鳴が聞こえ始めたではないか。



 莉久が悲鳴の方向を見ると、ルーシーの騎兵が物凄い数で突撃してきたのだ。



背後には多くの歩兵が銃を手にしている。



 先手を打たれた虎白は口から流れ出る白い血を拭くと、女戦士を睨みつけた。



「大した度胸だな」

「ユーリ・ザルゴヴィッチ。 ルーシーの英雄と兵や民からは呼ばれている」

「へえ。 奇遇だな俺も英雄なんて言われているぞ」

「これは持論だが、英雄は一時代に一人で十分だ」




 なおも好戦的なユーリと名乗った女戦士は、虎白と対峙して皇国武士に囲まれているというのに余裕すら感じさせていた。



彼女の態度に腹を立てた莉久が斬りかかると、ユーリはまたしてもサーベルで受け止めると激しい頭突きを食らわした。



 のけぞった莉久の小さくて、くっきりとした綺麗な鼻から純白の血が吹き出た次の瞬間だ。



ユーリは莉久を斬り捨てたのだ。



 皇国で作られた頑丈な鎧が砕けて、空中に散りばめられる破片が皮肉なまでに美しく舞う中で莉久は戦場に倒れたのだった。



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