第6ー11話 赤き姫の登場
自身の体が複数あれば、良いのになと思う事はないだろうか。
問題がいくつもあり、どれも自身で対処しなくてはならない状況において面倒な事を一瞬で解決できれば何よりもいいだろう。
しかし現実は体は一つで、問題の対処には一つずつしか行えない。
時間が止まってほしいや、体が複数あればと嘆きながら対処するのが世界のあり方であろう。
それは天上界でも同じ事であった。
北側領土へ出向いた虎白は、美しき将軍らが衝突している事実を知った上で遠征に出ていた。
浮かない表情で、黙り込んでいる虎白は
「この平原はツンドラと戦った場所だ・・・」
「僕は参戦していませんでしたが、激しい戦闘だったとか」
「ああ、嬴政やアルデンにメルキータが死に物狂いで戦ったんだ」
気がつけばあれから随分と年月が経過しているなと、痛感しながら歩いている。
天上界に来たばかりで、ツンドラのノバからの宣戦布告は戦慄したものだ。
しかし親友である嬴政と、新たな盟友となったアルデンと共にツンドラを撃退した事はもう遠い昔にも感じていた。
今では天上界の英雄と呼ばれ、強国を率いている。
盟友の国難に助力に行けるほどにまで、成長した白陸帝国。
虎白は過去を思い浮かべる余裕もないほどに、駆け抜けてきたのだ。
「立ち止まっていられねえ。 戦争のねえ天上界を作るためなら戦争をするしかねえのもわかってる」
人は話し合いで解決をしろと促す。
しかし対話の予知もない相手に、どう話し合えと言うのだろうか。
現在アルデンと対峙している二カ国の強国は異なる国柄を持っているが、共通の敵であるスタシア王国を叩き潰さんとしている。
アルデンがツンドラ領を獲得して、北側領土の覇者になるよりも前はかの二カ国とて激しく対立していたのだ。
つまる所、敵の敵は味方というやつだ。
強国二カ国に挟まれて苦戦しているアルデンは、やむなく虎白に助力を
要請を受けた虎白と千の皇国武士達は、やがてスタシア国境にまで進むと待機した。
「それにしてもアルデン王は随分と苦戦している様ですね・・・」
「北の情勢にはさほど詳しくないが、かなり強い国に攻め込まれていると聞く」
「万が一に備えて、白陸軍と将軍も呼ぶのはいかがですか?」
最悪の事態を想定した莉久の忠告に、白くてもふもふしている耳を傾けていると前方から複数の騎馬隊が接近してきた。
赤い旗に剣が交差しているスタシアの国旗が迫ってくると、先頭を進むのは赤髪が美しい美女ではないか。
顔はアルデン王に良く似ている。
見慣れぬ美女であったが、皇国武士の前にまで迫ると馬の足を止めて下馬すると、虎白達の元へ近づいてきた。
「鞍馬虎白様とお見受け致します。 スタシアのアルデン王が妹、メアリー・フォン・ヒステリカと申します」
血筋であろう赤髪を優雅になびかせながら、上品に一礼するメアリーは何とも美しかったが、白銀の鎧に身を包み腰には聖剣が携えられている。
彼女の背後にいる騎馬隊も、良く見れば全てが女性ではないか。
驚いた様子で顔を見合わせる虎白と莉久は、僅かな間を置いて名乗った。
なおも上品に微笑む赤き王の妹である、赤き姫は兄の同盟者に深刻なスタシア情勢を説明し始めた。
「おもてなしもできずに申し訳ありません・・・早速なんですが、私と共に前線にご同行できませんか?」
「お、おい・・・俺達は婚姻同盟の話しを・・・」
「勝手で大変恐縮なのですが、今は婚姻同盟すらも危ういほどに攻め込まれています・・・」
困惑した様子を隠しきれない虎白と莉久は、足早に前線へ向かおうとするメアリーを止める事もできずに、やむなく追従した。
やはり白陸軍を大勢率いてくるべきだったなと、顔を見合わせる二柱の暗い表情も当然だ。
颯爽と赤髪をなびかせて、駆けていく赤き姫の背中を眺めながら追従する虎白達は敵国の名前すらわからずに、前線へ向かうのであった。
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