第6ー4話 先住神による罠

 住めば都という言葉は、本当にそうなのか。



見知らぬ土地であっても住んでみれば快適になるという意味だが、果たしてどうだろうか。



 確かに土地へ愛着が湧き、いざこの地を離れるとなると心苦しい時もある。



しかし辺鄙へんぴな土地にして何もない場所であってもそう思えるか。



その場所が後に人々が恐れる死の国であっても都になるだろうか。



 大陸大戦にて撃退した先住神せんじゅしんのシュメール神族の捕虜はゼウス達に天上界と冥府について話した。




「天上界は明るい土地だが、それ以外に何もない。 冥府は暗い土地だが、暮らしやすく作物もなるだろう」




 ゼウス達三兄弟の前で、光の縄に繋がれているシュメール神族の女神はそう話していた。



地球という土地を征服した神々は、それぞれの所属に分かれて残りの土地の征服に乗り出したのだ。



敗北したシュメール神族はゼウスの統治下に置かれた。



 まだ生えかけの髭をわしわしと、触っているゼウスは二柱の兄達と相談をしている。



長男であるハデスは、暗いが資源豊かな土地へ感心があった。



 つまる所、シュメール神族が所有していた世界は、下界と呼ばれる地球と天上界、冥府という三つの世界を持っていた。



 シュメール神族を撃退して、捕虜から聞き出した情報によって三つの世界を行き来する事ができたゼウスらは三兄弟によって世界を統治しようと決めた。



 最高神であるゼウスは天上界へ。



 ポセイドンは地球へ。



 ハデスは冥府の統治を行う事で決まったのだった。



こうして今の世界のあり方が確率したのだが、シュメール神族はとある重要な事実を隠していたのだ。



 ゼウスによる天上界の統治が行われ始めたある日の事だ。



「なんだこの扉は?」



 天上界にそびえる黄金の扉を発見したゼウスは、盟友である虎白ら日本神族のおさのアマテラスを呼び出した。



 二柱でこの奇妙な扉を前に首をかしげていると、太陽神アマテラスは美しい笑みを浮かべて雷神ゼウスへ言葉を投げかけた。



 かの太陽神の声は美しく、聞く者の心の闇を浄化してしまうほど愛おしい声だった。



「この扉の向こうをわたくし達が見てまいりましょう」



 そう言ってアマテラス以下日本神族の主だった者達は、黄金の扉を開けて先へ進んでいった。



 天上界に残した者は虎白と彼の第九軍だけだった。



 しかしその頃虎白は、ポセイドンの野暮用の手伝いで第九軍を連れて地球へと降り立っていた。



 そして扉が閉まると、シュメール神族による最期の抵抗が始まったのだ。



 ゼウスは閉まった扉をしばらく眺めていたが、アマテラスの使いの一柱とて戻ってこない事に疑問を感じ始めた。



 やがて扉を開けようと試みたが、どうした事か扉はまるで開かなかった。



異変に気がついたゼウスは急いで王宮へと戻ってシュメール神族の捕虜に事の次第を問い詰めようとした。



 しかし王宮を守っていたはずの衛兵らが、全滅しているではないか。



「な、何事だ!? 誰かいないのか!!」

「あ、ああ王よ・・・」



 微かに息のある下級神かきゅうしんの衛兵を抱きかかえて、事の次第を尋ねるとシュメール神族は逃げ去ったと話した。



 ゼウスはその瞬間、黄金の扉に重大な秘密があったのだと気がつくと捕虜を追いかけるために伝令の神にして高速移動の力を持つ「ヘルメス」という神を呼びつけた。



 瞬きほどの速さで現れたヘルメスは、逃げたシュメール神族の捕虜を追いかけた。



 しかし高速の神を持ってしても、捕虜を捕まえる事ができなかった。



「まいったなあ・・・居場所がわかれば、簡単に捕まえる事ができるのに・・・ハデスさんの冥府に逃げていないか、聞いてみようかな」




 こつ然と姿を消したシュメール神族の捕虜が、冥府に逃げたのではないかと考えたヘルメスはハデスの元を訪れた。



 そこは薄暗く物静かな世界が広がっていた。



シュメール神族の話では、冥府は暗いが作物のなる世界という事だった。



 薄暗い世界へ入ったヘルメスはそこで、シュメール神族の話した内容が大嘘だったのだと気付かされた。



 ヘルメスの黄金の瞳に写っているのは、ハデスと彼の配下が打ち破ったはずのシュメール神族と激戦を繰り広げているのだ。



 これは一大事だとヘルメスは直ぐにゼウスの元へ戻ろうとした次の瞬間。



 ヘルメスは自身の背中に走る激痛に表情を歪めて、倒れ込んだ。



「私の第八感・・・万物に擬態する力・・・あなたの履物についた土に擬態すれば、逃げ切れると踏んだのよ・・・」




 激痛に悶えるヘルメスを見下したまま、シュメール神族の捕虜は仲間が戦う冥府へと戻っていったのだった。






 

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