第2ー14話 犬の半獣族の狙い
突如、頭を下げるメルキータの様子に言葉を失う友奈は、虎白達の顔を見た。
「え、えっとお......」
「どういうことだ?」
「わ、私にもわからない......メルキータ説明してよ」
アテナ神殿で、虎白を刺した後に数日間彷徨った。勢い任せに出ていったはいいものの、行く宛なんて当然なかった。
天王ゼウスが治めている王都で、男からのナンパに追われるだけの日々。行く宛もない友奈は、何度心を許してしまおうかと揺らいだことか。
そんな彼女の前に突如現れたのが、メルキータだった。
「行く宛のない私と共に行動してくれたんだけど......メルキータも行く宛がないって言っていたの。 だから白陸ができたから謝ってもう一度、一緒にいられないかなって......」
虎白を刺したと知った夜叉子は、一気に表情を曇らせた。こんな怪しい女を白陸に入れていいものか。半獣族の方に関しては、いきなり助けてと話している。誰がどう考えたって怪しいさ。
目を細めて、冷たい視線を送る夜叉子は、心の中でそう考えた。
「よお夜叉子。 こいつは確かに俺を刺した。 だがそれは、俺にも刺されて当然の理由があるってこの間、話しただろ? 友奈のことは恨んでねえし、白陸へ歓迎する。 だがメルキータは別だ」
見ず知らずの半獣族に助けてと言われて、素直に歓迎できるものか。頭を下げ続けているメルキータへ一同の視線が集まった。
まるで絞り出すような声で、彼女が口を開いた。
「わ、私はある国の皇女です......私のお願いとは......私のツンドラ帝国を滅ぼしてほしいのです」
一同は驚愕した。目を見開いて、のけぞっている虎白は、その場で固まっている。
夜叉子は、やはりそんなことかと、変わらず冷たい視線を送った。そして何よりも驚愕しているのは、友奈だった。口元に手を当てて、言葉を失う友奈は、眼球だけがキョロキョロと動いて、虎白や夜叉子を見ている。
しばらくの沈黙の後に、虎白がため息交じりの声を発した。
「お前友奈から何を聞いた? 俺が神族で、国を作っていると聞いて友奈に近づいたんじゃないのか?」
虎白の言葉を聞いた友奈は、アテナ神殿を出てメルキータに出会った日のことを思い出した。
行く宛もなく、王都を彷徨う友奈には、男達がつきまとっていた。
「よかったらホテルでお酒でもどう?」
「いや大丈夫です」
「じゃあご飯行こうよ?」
「もう! うるさいって!」
色白で小柄の友奈が、町を一人で歩いている。表情は悲しそうで、男達は失恋したての格好の獲物と見ていた。
実際は失恋どころか、愛した相手が犠牲になったのだ。顔面蒼白で彷徨う友奈は、やり場のわからない苛立ちをただ、抑えることしかできなかった。
「随分と悲しそうな顔をしているな」
「もうだからナンパとかって......あれ? 女性?」
「驚いたか? 私の名前はメルキータ。 ハスキーの半獣族だ」
同性ということから、心を開きやすかった。自分をホテルへ連れ込もうとしている男ではなく、ただ哀れみから話しかけてくれたメルキータに友奈は、今日までの惨劇を全て話した。
そしてお互いに行く宛のない者同士、虎白の元へすがりついたと思っていた。
「よ、よくよく考えれば私はメルキータの素性を全然知らなかった......親身に話しを聞いてくれて、同情してくれるから安心してたけど......」
友奈は、我に返ったようにメルキータの海のように青い瞳を見つめた。顔を歪ませているハスキーの皇女は、返す言葉もない様子だ。
「私が虎白と繋がりがあったから心配してくれていたの? 上手くすれば、虎白に会えるから?」
「ち、違う! 決してそんなことは......」
「じゃあどうして話してくれなかったの!?」
友奈の瞳には涙が滲んでいる。方や夜叉子は、呆れた様子で煙管を吸い始めた。
気がつけば、竹子と笹子の大仕事の甲斐もあり、移民達は新居へと移っている。この場に残っているのは、友奈とメルキータだけとなっていた。
やがて竹子ら姉妹も仕事を終えて、疲れた様子で戻ってきた。殺伐とする空気に異変を感じて、静かに近づいてくると、虎白の顔を見た。
「どうしたの? 友奈さんだよね?」
「ああ、何やら問題だ」
激しく言い争う二人を見ている一同は、仕事の疲れのせいか、苛立っている。見てられないという表情で、夕食の支度を始める竹子と笹子。
夜叉子も同様に竹子と笹子の手伝いのため、その場から離れた。口論を黙って聞いてるのは、虎白だけとなった。
「もうわかった黙れ」
「え!?」
「とにかくメルキータ。 事情を話せ。 俺達がお前らの内乱に加担する理由は?」
「く、鞍馬様は狐の神族だから......私達のような半獣族に寛大かと思って......今私の民は、兄である皇帝の圧政に苦しみ、生きることすら困難なのです。 何度も兄に抗議しましたが、遂に私も反逆者と呼ばれるようになり、こうして逃げてきたのです......」
メルキータは涙ながらに語った。
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