第4話 何がそうさせた
底知れぬ闇の中から、必死に這い上がろうとする祐輝は、虎白と竹子というこの世では出会う事のない存在に出会った。竹子はまさに才色兼備とも言える、とてつもない美貌と、卓越した刀術を身につけている。愛想も良く、礼儀正しい彼女は、どん底から這い上がろうとする祐輝の背中を優しく丁寧に押した。
しかし霊界に棲む、邪悪な怨霊達は、無慈悲なまでに殺到している。竹子による孤軍奮闘の中、悲鳴を上げながら祐輝は逃げようとしていた。
「さあ祐輝殿! こちらへ急いで、長くは持ちこたえられませんので」
竹子がやっとの思いで、道を切り開いている。迫る怨霊を、一体倒すことで怯んで微かな時間が生まれる。その時間を使い、狭き道を進んでいるが、怨霊の数はまるで減っていない。
遂には、竹子の力も限界に達し、刀を振る速度が落ちてきている。軽々斬っていた怨霊の体が、一太刀では斬れなくなっていた。
「も、もうこれ以上は......」
「放てー!」
「!?」
竹子がいよいよ、限界かと思われたその時だ。
雷鳴のように鳴り響いた轟音と共に、複数の怨霊が倒れて消えた。竹子が、ふと轟音の鳴る方を見ると、そこには
そしてとんがり帽子の真ん中で、刀を持って指揮している少女がいる。
「あ、あれは......まさか......」
まだあどけなさの残っている少女を見た竹子は、口に手を当てて、驚いていた。その時だ。
「た、竹子さ、ん......」
「あ、ああ、そ、そんな祐輝殿!」
それは瞬きほどの一瞬であった。
竹子が、少女に気を取られている刹那に祐輝の胸には、黒い矢が突き刺さっていたのだ。次第に力が抜けて、歩くこともできなくなっていく祐輝は路上に倒れた。
この世で、再び救急車を呼ぶか、警察か、それとも動画の再生数かという人間の様々な思いが交差する中、霊界で静かに射抜かれた。
「ご、ごめんね竹子さん......お、俺......もう一度、頑張って生きようと思ったんだよ......」
「し、しっかりしてください! 生きるのですよ!」
「き、綺麗だね竹子さん......お、俺も息子の元へ行けるかな......そうしたら、俺も竹子さんのような美しい女性を妻にできるかな......」
竹子は、祐輝を抱きしめるようにして守っている。しかし怨霊は、祐輝がもう助からないとわかったからか、一切動かなくなった。冷たく、不気味な視線だけを向けている。
謎の少女と、とんがり帽子達が、銃撃を続ける中、竹子は祐輝と最後の会話をしていた。
「わ、私なんてそんな......きっと素晴らしい奥方に出会えるでしょう」
「そ、そうだ......どうして俺の守護霊になってくれたのか............」
教えて。そう言い終えることなく、祐輝は眠るように息を引き取った。
竹子は、悲鳴を上げながら、
空からは、大粒の雨が降り始め、竹子の涙は消えた。
「永遠の安息......永遠の解放......忠実なら約束される......」
雨音に紛れて、聞こえてくる低い声。
竹子が周囲を見ると、怨霊達が口を揃えて、同じ言葉を繰り返していた。少女からの銃撃を受けても、気にもせずに、祐輝の亡骸だけを見つめている。その時だ。
怨霊達は、突如として、竹子を祐輝から引き離そうと動き始めた。抵抗する竹子の顔を殴り、倒れても踏みつける邪悪な存在は、既に息を引き取っているはずの祐輝へさらなる攻撃を始めようとしていた。
「や、やめて! も、もうそっとしておいて!」
竹子がそう叫んだ。しかし怨霊には、何も響いていない。祐輝の亡骸を、掴んで引きずり始めた。
すると、怨霊が一瞬にして複数人も倒れた。続けさまに、倒れていく怨霊は、怯えているのか、離れていった。
「逃がしてたまるか! 許さねえぞてめえら! こいつが、何をしたってんだよ!」
聞き慣れた声が、怒り狂っている。竹子が、祐輝の亡骸を見ると、辺りには白いもやが立ち込めていた。そして、白いもやは、虹色に輝いている。
目を凝らして、虹色のもやの先を見ると、そこには二刀流だろうか。刀を振り回して、怨霊を斬っている者の姿があった。
「え、ええ......もしかして」
そして次の瞬間、もやを突き破るように姿を見せたのは、純白の顔をした男だ。彼は竹子の腕を掴むと、足早にその場を後にした。
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