第73話 俺と親友の中学時代 ~対決~

 主審を終えて、本部に試合結果を伝える前に線審をやっていた有峰さんに話しかける。

 

「バドミントン、お強いんですね」

「あ、やっぱり、先ほどの方ですよね! 主審をやっているということは……、なんかすいません」


 俺が話しかけると、有峰さんは嫌な顔一つせずに話に応じてくれた。

 ましてや、『あなたの学校の子を負かしてしまいすいません』とばかりに謝罪までされてしまった。

 

 本来なら、こういうナンパみたいなことはしたくないのだが、どうしても彼女と話したくなったのだ。

 友人のようにタイプだからではなく、単純に興味が湧いたので話しかけた。

 確かに、美人だから話しかけたという気持ちもなくもないが、その理由がメインではない。


「大丈夫ですよ。彼女も全力で戦った結果ですから」

「ならよかったですけど……」

「試合見てたんですけど、本当にうまいですね! うちの子も相当強いと思ったんですけど」

「強かったですよ、負けるかと思いましたもん」


 さすがに謙遜だとは思うが、それでも嫌味なく伝えてくれる有峰さん。

 少し話すだけで、彼女がいかに優しく前向きで明るい性格なのかが良く分かる。

 この性格でこの容姿なら、まず間違いなくモテるだろう。


「いやー、本当に強いですねー。強くなる方法とかあるんですかな?」

「え、えーと……」


 俺と有峰さんが話しているのを見て好機と思ったのか、友人も会話に混ざってきた。

 いきなりの来客に有峰さんも戸惑いが隠せない様子。

 だって、こいつの目に下心がありありと籠っているんだもん。

 俺が女子なら裸足で逃げ出して、助走つけてぶん殴るレベル。

 

「じゃあ、俺は本部に結果出してくるから。あとはよろしく」

「おう、任せろ!」

「えっ?」


 有峰さんと話したいことはあったのだが、友人が入ってきたら話せないので俺は素直に退散する。

 友人は『よくやったぞ!』と言いたげな目をしていて、とても腹が立つ。

別にお前のために話しかけたのではない。


でも、天文学的な確率で成功する可能性があるから、願うことだけはやってやるぜ。

 

◆◇

 

 大会で有峰さんと会ってから、早くも数か月が経とうとしていた。

 それ以降一回も彼女とは会っていないが、彼女との出会いは俺を決定的に変えた。


 同い年であんなにバドミントンが上手く、顔も性格もいいという圧倒的な才能をもっている人を見て、普通の人なら何を思うだろうか。

 嫉妬心で、彼女をただ妬むだろうか。それとも、ただただ感嘆するだろうか。

 

俺の場合は、ただただ尊敬をした。そして、彼女を超えたいと思った。

 正直に言って、嫉妬の気持ちはある。

 どれか一つだけでもいいから欲しいし、神は三物以上も彼女に渡したし。

 だからと言って、『あいつは特別だから、しょうがない』と言って終わるのもなんか癪に思った。


 だから、あの日から真面目にバドミントンの練習をした。

 早めに来て準備もしたし、練習メニューも増やして努力した。

 友人からは異端の目で見られ、心配もされた。


 しかし、それでも俺はやめなかった。

 これもすべて、彼女に一泡吹かせるために。


そして数か月が経った頃、有峰さんの学校と練習試合をすることになった。

 地区は違えど、距離的には近い学校なので実現した練習試合。

 この機会を逃すほかはない。


◆◇


体操や基礎打ちを終え、試合相手を探す時間になった。

 俺はすぐに有峰さんを探し、対戦を申し込む。


「お久しぶりですね」

「あっ、お久しぶりです!」


 俺が話しかけると、彼女はまだ俺を覚えてくれたみたいで返事してくれた。

 

「早速で申し訳ないんですが、シングルスやりませんか?」

「えっ、男子とやるんですか?」

「ダメですか?」

「ダメではないですけど、相手になりませんよ……?」


 俺の誘いを困惑しながらも了承してくれた。

 優しいが故に、押しに弱いのかもしれない。


 あと、この『相手にならない』というのはどっちの意味なんだろうか?

 あんたなんかじゃ相手にならない、という挑発なのか、私なんかじゃ相手にならない、とう謙遜なのか。


◆◇

 

 ボコボコにされました。

 挑発の意味じゃねぇか、この野郎!

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