第72話 俺と親友の中学時代 ~実力~
「なんでそんなこと知ってんだ? 隣の地区の選手だろ?」
「何言ってんだ。めっちゃ有名だろ」
「有名?」
「ああ、中学からバドミントンを初めてまだ一年もたっていないのに、実力がすごいんだ。あと、なんといってもかわいい。彼女を一目見たくて、俺はお前の試合の応援に来たと言っても過言ではない」
隣で有峰さんに釘付けになっている友人を見て、俺は軽く引いた。
そして深く軽蔑した。
曲がりなりにも応援しに来てくれた友人に言うことではないが、最低だなこいつ。
なんかもう友人について考えるのは時間の無駄だと気づき始めたので、応援に集中する。
コートでは、二人が試合前の練習を一本しているところだった。
バドミントン経験がまだまだ浅いので分からないことは多いが、試合前の軽い打 ち合いで相手の強さというものが分かる。
相手のフォームや、クリアの飛び、フットワークの速さ、雰囲気。
これらすべてが打ち始めてやっとわかる。
もちろん、その打ち合いにはシャトルの調子やその体育館でのやりやすさ、ウォーミングアップなどの意味もあるが。
それを踏まえて、目の前で行われている練習を見ると、有峰さんの方が押している気がする。
女子の初心者では、コートの奥までクリアが飛ばすことができない子もいるのに、彼女は平然とシャトルを飛ばす。
フォームやフットワークも見てて、優雅なダンスだと勘違いしてしまうほどに洗練されている。
ゲームが始まる前から、応援している俺が諦めてしまいそうになった。
◆◇
「やっぱつえぇな、有峰さんは」
「ああ、そうだな」
試合を終えて、俺と友人は感想を述べた。
試合は有峰さんの勝利で終わった。
点数的には、なかなかうちの女子も頑張ってはいたが、ストレートで負けてしまった。
見かけ上の点数はいい勝負だったかもしれないが、試合の内容を見てみると点数以上の実力差が表れていた。
きっと、これが彼女の本気ではない。
今日はまだこれから試合が続くので、彼女は知力温存のために実力のすべてを発揮していないのだろう。
現に、コート内でうちの女子と終わりの握手をしている有峰さんの表情は、まだまだ余裕がありそうだ。
俺は友人を応援席から無理やり引っ張って、コートに向かう。
「お疲れ様。いい試合だったね」
「く、久野君。そうだったかな。でも、手も足も出なかったよ……」
試合を終えたその子に、俺は慰めの言葉と健闘を称える言葉を送った。
当のその子は、俺の安い言葉でも元気になれたのか、少し顔を綻ばせた。
それでも、顔にはありありと無念の表情が出ている。
「負け審、俺とこいつががやるから、休んでていいよ」
「えっ、俺もかよ。そのために応援席から引っ張りやがったのか!」
ごちゃごちゃとうるさい友人を無視して、その子にタオルとドリンクを渡す。
その子は渡したタオルで汗を拭きながら、俺から一歩離れた。
「えっ、そんなの悪いよ……。私が負けたんだし……」
「いいよ、頑張ったんだから。少しは休めって」
「で、でも……」
「いいから。行けって」
「きゃっ!」
俺のやさしさを素直に受け取らず、むしろ申し訳なさすら出したその子を、俺は肩を掴んで逆に向かせた。
そして肩を押してコートから押し出した。
そこまでやると、その子も渋々ながら納得してコートを後にした。
運動した後で暑いからか、顔を真っ赤にさせながら。
「で? 結局俺も審判やんのかよ」
「ああ、俺が主審はするからさ」
「線審でもめんどくさいんだが……」
俺が譲歩して主審をすると言ったのに、こいつは俺の思いやりに気づいていないらしい。
本当に残念な奴だ。
「線審をすれば、対角線で線審をやっている有峰さんの顔が見放題だぞ」
「よっしゃ! やる気出てきた! 任せろ相棒!」
「得点板だけちゃんと頼むな」
ちょろすぎて心配になるお猿さんを相棒としてゲットしたところで、俺も大会本部に得点用紙を取りに向かった。
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