失恋した男でも学園ラブコメに参戦できるだろうか?
涼野 鷲
第1話 人生初の‥‥‥‥
忘れもしない高1冬のことだった。
人通りの多さは、夜も抑まる様子はない。
ショーウィンドウに自身の影が映る。進は、いつになく緊張するはずだった。
しかし、今、進の心はたった今降ってきた雪のことで精一杯だった。
「こんなことになるんだったら傘持って来れば良かった」
そんなちっぽけなことを考えていた。
雪は、周りを囲んでいるビルの影響からか、かなり降っているように見えた。
――遠くから足音が聞こえてきた。
今まで何百、いや何千と聞いてきた音だ。
「ごめん、待ち合わせ19時だったよね」
その声の主は、幼馴染の小野塚菊穂だった。彼女は、進より頭一つ分小さく、まさに、理想の身長差というべきだろうか。
「いや全然待ってないし、大丈夫だよ。ていうか髪切ったんだ」
この前まで、腰のあたりまであった髪がバッサリと切られており、より可愛さが増していた。しかし、そんなかわいいだなんて、言えるはずもなかった。
「ありがとう」
菊穂は、その一言だけ言って話題をすぐに切り替えようと
「今日はどういう用事?」
と下から覗き込まれるように聞かれ、照れながらも進は、
「ちょっと、話しておきたいことがあって」
進は、今までの関係を崩したくないと思いつつも今日はこのために来たんだ
と自分を鼓舞し、
これまで生きてきた決断の中で一番大きいものになる
そして、これまでの菊穂との十数年いろんなことがあった。喜びあったこと、悔しがったこと、一緒に怒られたこと、
こんなにたくさんの思い出があるのに
唯一できなかったこと
それを果たすと進は決めた
声が出る、菊穂がこちらを見ている
そして、
「あ‥‥あのさ」
「うん」
「ずっと前から好きだった。付き合ってくれないか」
「言ってしまった。」という後悔
「やっと言えた。 」という喜び
という表裏一体の感情がこみ上げてくる。胸が熱くなり、耳の近くに心臓があるのでは、と言うぐらい鼓動が耳に訴えてくる。
あと数秒後の答えへの不安と期待、
恋をすると馬鹿になる。というのは、こういうことなのか?と思考を巡らせていた
その時だった。
「遅すぎたんだよ」
思考が、急にストップする。
思いも寄らない一言だった。菊穂に目を向けるとなぜか泣いていた。何か言わなければ、しかし、脳が動かない。声が出ない。「何か、、何かないのか」本能が、脳に訴える。でも、それすらも遅かった。
「もう、行くね」
「待って、どういうこと何だよ‥‥‥」
掠れた声がやっと出た、謎の希望が見えた
進は改めて菊穂の方を見ると
その声も進の心さえも届いていなことを理解した。
「なぜ、どうして」という、失恋したことよりも何がダメだったのか、どういう理由でという気持ちの方が大きかった。
涙が頬をつたった。
何年ぶりだろうか。こんなにも心が動かされ、赤子のように自分がうまくいかなかったからといって、喚くのは、足掻くのは
期待したからこんなにも悲しくなるのか
だったら恋をするのは止めてやる。
もうこんなに苦しくなりたくない。
期待するから
相手に委ねるから
自分の思い通りにいかない選択肢があるから
所詮は他人なのだから
思いなど一緒にならない
これが、進にとって、人生で初めての失恋という経験の答えだった。
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