異世界に生理用品がないって本当ですか?

遠野めぐる

JK、墜ちる。

1-1

 白い光が、明り取りの小窓から、深い飴色のフローリングに点々と差し込んでいる。

 柔い朝日によって照らされた塵が廊下に漂う中、フローリングに落ちる光を、一人の少女が踏み越えていった。

「ふあぁ~……」

 その少女は白の可愛らしいネグリジェを身に纏っているが、乙女の恥じらいなどみじんも感じられない、大欠伸を浮かべた。

 寝癖がついたこげ茶色のボブをゆらゆらと揺らしながら、少女は廊下を歩く。その手には、少し不気味なクマのキーホルダーがついた、パステルカラーの水色のポーチがある。

「はぁ、ついに来やがったか……めんどくさっ……」

 むにゃむにゃと独り言を呟いて、廊下を曲がると、その先には、小さな看板が下げられた部屋の扉が見えるが、その看板には、どこの言語ともつかない、そもそも文字なのかもわからない、不思議な文様が刻まれていた。

 少女はその扉を遠慮なく開ける。

 その部屋はカーテンが掛けられていて薄暗く、物といえばベッドとテーブル、クローゼットがある程度の、質素な部屋だった。

 少女は右端に置かれた簡素なベッドに腰かけると、サイドテーブルに置かれた手帳とペンを手に取った。

(さすがに一か月くらい遅れたなぁ。まあ理由は考えなくても分かるけど)

 開かれたメモ帳にはバツが沢山書かれていたが、少女はそこに唯一の丸を書き加えると、手帳を閉じて、サイドテーブルに戻すと、その場で伸びをする。

「ん~……」

 ベッドから降りて、閉じられていたカーテンを勢いよく開け、窓を開け放つと、温かな風が、ふわりと少女の髪を通り抜けていった。

 すると、少女は何故か、苦笑いを浮かべた。

「……なんか、この景色にも慣れてきちゃったなぁ」

 そう言って、少女は窓枠に頬杖を突く。

 窓の外に広がるのは、いたって普通の日本の住宅街──ではなく、まるでヨーロッパの城下町のような石造りの建物の数々と、ゴツゴツとした鎧と子供の身長ほどある剣を身に着けた男や、地面につきそうなほど長いマントを纏う女など、ハロウィンの渋谷にでも迷い込んだのかと見紛うほど、現代にはあまりにもそぐわない、仮装のような恰好をした人々──冒険者たちの群れであった。


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