第31話決着

 一度はこちらが優位に立った、大鬼王オーガ・キングとの戦い。

 だが相手が戦いのながら、進化してしまう。


『ガァアアア!』


 全身が一回り大きくなった、大鬼王オーガ・キングが咆哮する。


「くっ⁉」


 心臓が止まりになるほどの、凄まじい圧だ。

 先ほどの以上の力を、大鬼王オーガ・キングから感じる。


「ハ、ハリト君!」


「大丈夫だ、マリア!」


 心配してくれた仲間に、大丈夫だと合図する。

 たしかに大鬼王オーガ・キングは予想外のことをしてきた。


 だが戦闘スタイルが変わった訳ではない。

 冷静に対処しないといけないのだ。


『グァアアアア!』


 大鬼王オーガ・キングが構える。

 先ほどと同じように蛮刀で、斬撃を繰り出してくるつもりなのだ。


『ガァアアアア!』


大鬼王オーガ・キング”が動く。

 蛮刀を振りかぶって、斬り込んできたのだ。


 よく見て対処をしないと。


「なっ⁉ 速い⁉」


 だが予想以上の斬り込み速度だった。

 こちらの回避は間に合わない。


「くっ⁉ 【受け崩し】!」


 咄嗟に、受け流し系のスキルを発動。

 相手の蛮刀の斬撃を、自分の剣で受け流す。


 ジャリリリ、バッキーーン!


「うっわっ!」


 受け流しに失敗。

 オレは吹き飛ばされてしまう。


 先ほどの以上の怪力と、斬撃の鋭さだった。

 受け流すとこが出来なかったのだ。


『ガァアアアア!』


 大鬼王オーガ・キングが追撃をしてくる。

 体勢を崩したオレに、止めを刺そうとしているのだ。


「くそっ! 【強斬ハイ・スラッシュ】!」


 なんとか体勢を立て直し、剣技を発動。

 カウンター気味で相手の胴体に、斬り込む。


 よし、いけるタイミング。

 相手の蛮刀を掻い潜り、オレは斬撃をくらわす


 バッ、バッキーーン!


「なっ⁉」


 だがオレの攻撃は弾かれてしまう。

 大鬼王オーガ・キングが先ほどの以上に、強固な表皮になっていたのだ。


 キーーーン。


 衝撃で手が痺れてしまう。


「くそっ!」


 オレは無様な体勢のまま、相手から距離を取る。


『ガッ、ハ!』


 対する大鬼王オーガ・キングは追撃してこなかった。

 余裕の表情をしていのだ。


 オレの先ほどの渾身の一撃は、まるでダメージを与えられていない。


「くそっ……なんだ、あれは⁉」


 まさかの大鬼王オーガ・キングの急激なパワーアップに、思わず毒を吐いてしまう。

 だが心は冷静にして、相手を観察する。


「見た目は、それほど変わっていない。でも、まるで別個体のように強くなったぞ、アイツは⁉」


 大鬼王オーガ・キングの移動速度と攻撃力、防御力の全てが向上していた。

 あの一瞬で急激に強くなったのだ。


「まるで『急激にレベルアップしたような感じ』だったな……ん? まさか⁉」


 ――――その時だった。


 ある仮説が頭に浮かんでくる。


「まさかアイツも……スキルアップをしたのか⁉」


 先ほどの大鬼王オーガ・キングの急激な強化。

 オレと同じようにスキルアップした可能性があるのだ。


「そういえばアイツの雰囲気……アレは間違いないな……」


 大鬼王オーガ・キングは赤く光り、パワーアップした。

 あの雰囲気はオレのスキルアップの時と、よく似ている。


「ふう……そうか。“お前もオレと同じ力を、得ていのか⁉」


 全ての情報はパズルとなり完成。

 その結論に至る。


 どうやって同じ力を得たのまでは、分からない。

 もしかしたら大鬼王オーガ・キングも、あの空間に行ったのか?


 とにかくスキルアップの力を開眼して、大鬼オーガから大鬼王オーガ・キングに進化。

 更には戦いながら、自分自身をスキルアップできるようになったのだ。


「ふう……これは、マズイな」


 まさかの状況に思わず毒づく。

 ここだけの話、自分以外にもスキルアップを使える冒険者が、どこかにいるとは思っていた。

 だが魔物が会得していたとは、予想もしていなかった。


 しかも相手が因縁の相手。

 前回の自分を殺した魔物がが、自分と同じスキルシステムを会得していた。

 まさに運命の宿敵としか言えない関係だ。


「どうする……どうやって対応をすれば……⁉」


 状況を整理していく。

 相手は自分と同じく、急激なスキルアップ可能。


 つまり普通の戦いの常識が、通じないのだ。

 冷静に対処しるしかない。


(今やスピードとパワー、防御力も相手が上。オレが勝っているのは、何がある⁉)


 大鬼王オーガ・キングを牽制しながら、自分のステータスを確認。

 相手に勝てるスキルの要素を探す。


 くっ……剣技と回避は、これ以上はパワーアップできない。

 高レベルなっていて、必要スキルアップが足りないのだ。


 それなら別の物を探すしかない。

 大鬼王オーガ・キングには無くて、自分にだけある得意技……固有の中から活路を見出すしかないのだ。


 必死で自分の固有スキルを、見つめる。

 活路が何かないか、頭をフル回転させて考えていく。


 ――――そんな時だった。


 突然、天の声が聞こえる。


 ピコーン♪


 ☆《ハリトは固有観察眼【予知眼】レベル0を会得しました》


 なっ⁉

 いきなり新しいスキルを開眼したぞ。


《観察眼》【予知眼】……どういう効果があるんだ?


『ガァアアア!』


 だが今は確認している暇はない。

 大鬼王オーガ・キングが動き出したのだ。


「くそっ! こうなったら残りのスキルポイントを、一気に全振りだ!」


 ステータス画面をすぐさま操作。


 ☆《ハリトの【予知眼】レベル0→4に上昇しました》


 わらを掴む思いで、新しいスキルをアップさせる。


『ガァアアアア!』


 直後、大鬼王オーガ・キングが動く。

 蛮刀を振りかぶって、斬り込んできたのだ。


 先ほどと同じ、凄まじい踏み込みだ。

 回避は不可能。


 ――――だが、今回は違っていた。


「なっ……大鬼王オーガ・キングの動きが⁉」


 今回はゆっくり見えていた。


 いや……相手の速度が変化したのではない。


 相手の次の動きを、“オレが読めるように”なっていたのだ。


「これが【予知眼】の力なのか⁉ 有りがたい! 【受け崩し】!」


 受け流し系のスキルを発動。

 今回は相手の動きは見えている


 蛮刀の斬撃を、自分の剣で完璧に受け流す。


 ジャリリリ、キーーーン!


 よし、上手くいったぞ。

 大鬼王オーガ・キングの攻撃を受け流しせた。

 相手の体勢は崩れている。


「今だぁああ! 【強斬ハイ・スラッシュ】ぅう!」


 完璧なタイミング、カウンター気味に剣技を発動。


 ズッシャ、ガキン!


 大鬼王オーガ・キングの内モモに斬撃をくらわす。

 よし、斬れたぞ。

 ダメージを与えることに成功したのだ。


『ギャアア⁉』


 まさかの反撃を喰らい、大鬼王オーガ・キングは吠える。

 蛮刀を振り回しきた。


 その動きも予測できる。


「はっ!」


 オレは後方に下がって、距離を取る。

 相手の隙を伺う。


「よし! いけるぞ!」


 心の中でガッツポーズをする。

 何故なら今度は、有効打を与えられたのだ。


 パワーとスピードでは、未だに相手が上。

 だが【予知眼】のお蔭で、相手の動きの先読みが可能になった。


 これで回避と受け流しは、何とかなる。

 あとは攻撃。

 あの強固な表皮に、致命傷を与える攻撃手段が必要なのだ。


 相手を警戒しながら、ステータス画面を横目で確認していく。


「ん? これは……」


 剣技のレベルアップに伴い、新しい攻撃スキルを会得していた。



 ――――《ステータス》――――


 □名前:ハリト(♂16歳)

 □職業:軽剣士

 □第二職業:聖女候補の導き手

 □メインレベル17

 ↓スキルポイント:39→2


 □スキル

 up・剣技(片手剣)レベル4→6

 ├斬撃スラッシュ

 ├飛斬スラッシュ・カッター

 ├強斬ハイ・スラッシュ

 ├多斬ダブル・スラッシュ

 ├new・大飛斬ハイスラッシュ・カッター

 └new・鉄斬アイアン・クラッシュ



 up・回避(受け流し)レベル4→5

 ├見切り

 ├受け崩し

 ├集中回避

 ├味方受け流し

 └new・紙一重



 ・隠密レベル2

 ├忍び足

 └壁登り


 ・盗賊レベル2

 ├罠発見

 └罠解除


 ・空間収納レベル1

 └収納リスト


 □固有

 ・《観察眼》

 ├new予知眼レベル0→4

 ├鑑定眼レベル1

 └探知レベル2


 ・■■■■■■■■■■


 □身長180センチ


 ――――◇――――


 おお、あった!

 この新しい“大飛斬ハイスラッシュ・カッター”と“鉄斬アイアン・クラッシュ”は使えそうだ!


 どんな攻撃スキルかは不明。

 だが今は使いながら試すしかない。


『ガァアアアア!』


 大鬼王オーガ・キングが再び動く。

 蛮刀を振りかぶって、斬り込んできたのだ。


 先ほど以上の凄まじい踏み込みだ。


「だが! 遅い!」


 予知眼のお蔭で、相手がゆっくり見えた。

 相手の次の動きが、読めるようになったのだ。


「いくぞぉおお!」


 だからオレも突っ込んでいく。

 相手の攻撃を新回避系のスキル《紙一重》で、ギリギリデにかい潜る。


 同時に、攻撃スキルを準備。

 この好機を逃してはいけない。


(でも、どこを狙えば、いいんだ⁉ ん? これは?)


 ――――その時だった。


 大鬼王オーガ・キングの首から、“白い光の線”が見える。

 線はオレの剣先に繋がり、不思議な道を作っていた。


(これは……もしや予知眼の力……“勝機の剣筋”か⁉)


 優れた剣士は“勝機の道筋”が読めると聞いたことがある。


 オレは未熟な剣士。

 だが予知眼のお蔭で、今のオレにも見えるようになっていたのだ。


 偶然かもしれないが、この好機を逃す手はない。


「はぁああ!」


 光の道筋そって、剣を振るう。

 狙うは大鬼王オーガ・キングの急所の首だ。


「いくぞ……鉄斬アイアン・クラッシュ!」


 新しい攻撃スキルを発動。

 全身全霊で斬りつける。


 ズッシャァアア! 


 見事に大鬼王オーガ・キングの首に命中。


『ギャ…………』


 クリティカル攻撃だった。

 大鬼王オーガ・キングはその場に倒れ込む。


 そして光の粒子となり、迷宮に吸収されていく。


『ウガ……ガ…………』


 大鬼王オーガ・キングの瞳は、オレのことを見つめてきた。

 清々しいまでの相手の表情。

 戦士としての誇りある表情だった。


「こちらこそ、感謝します。オレと正々堂々と戦ってくれて、ありがとう」


 その言葉が自分の口から、自然と出てくる。

 大鬼王オーガ・キングは真っ正面から、オレと勝負をしてくれた。


 宿敵とも言える相手に、自分も畏敬いけいの念が溢れてきたのだ。


『ウガ………』


 大鬼王オーガ・キングは満足そうな顔を浮べる。


 シュン。


 そして完全に粒子となって、消えてしまう


 オレは周囲を探知レーダーで調べる。

 もはや反応は何も無い。


「ふう……終わったのか……」


 こうして危険な大鬼王オーガ・キングとの一騎打ちは、幕を閉じたのであった。

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