第27話 生と死と
「おっちゃん!! 何してんだ!!」
叫んだのはルシエルであった。彼は幻獣。この世界で生きる古の生命体。人間よりも遥かに強靭な肉体を持つ。種族の違いは生命を時に脅かす。支配され略奪され、迫害され……、そして……殺される。
だが、彼等は選んだ。
種族繁栄の為に“共存”を。
それは人間が蔓延り、人間が力をつけ人間が“最強”になったからだ。
アルティミストはーー、“人間で術者”が最強。ルシエルたち古の伝説の幻獣たちも平伏すしかなかった。そう時代がなったのだ。
“瑠火の民”……、月雲の民の所為で。
アルティミストの魔道士とは……“月雲の民”の弟子たちである。大まかに言えば。
だが、彼等、月雲の民は“未知なる存在”であった。人間とは違う。黒髪に真紅の眼。アルティミストには存在しない容姿。彼等だけなのだ。その象徴が。
更に彼等……“瑠火”の使う術も魔法や魔術ではない。謎なのだ。それが……“悲劇を産む”。
そしてーー、共に旅をして来た“
「……赦せとは言わん。わかるであろう? ルシエル……。」
ドワーフのブラッドは愁弥の首元に斧を突きつけたままそう言った。
「おっちゃん!!」
ルシエルは黒く気高く……大きな狼犬だ。その声は低く……だが獰猛な気高き狼犬は、悲哀を浮かべた。
「死ね。“アルティミストの害壁”。」
ロッドを振りかざしたのはエメラルドグリーンの髪をした青年……“クリュト”であった。
「“
ロッドから放たれたのは黒紫の光。それは2つ。ルシエル、ヘルハウンドの体長5〜6メートルはあるであろう、その身体を軽々と包み込み風船の様に包み……、中に浮かせた。
「わ!! なんだ?? これ!?」
ルシエルはまるで“待て”の様な仕草のまま、身体を拘束され黒紫の風船の様な円球に包まれた。彼はそう叫んだが、動かない。だからそう言葉が出たのだ。
むぅ。
と、隣の黒紫の毛に覆われた同じような獣狼のヘルハウンドは牙を口元から覗かせながら、ぐるる。と、唸った。
彼はそのまままるで“伏せ”の様な体制を強いられ、黒紫の風船の中に包まれた。
「ルシエル! ヘルハウンド!」
愁弥は叫んだが、彼の身体にもロッドは剥けられた。
「……
ロッドの尖端には白玉。
それは混濁した白玉だ。大きな円球は光る。ミルキーな真珠の様なソフトボール状の円球は、光った。
黒く。
愁弥の眼の前でそれは光り、斧を向けていたブラッドは、直様に退いた。危険を察知したかのように。
愁弥はその光を丁度……胸元に受けた。
「!」
だが、痛みはなく……彼はその光を受けそのまま倒れ込んだのだ。呻く声すらなく。
「愁弥!!」
叫んだのはルシエルだった。待て状態で前足を上げたまま、彼は叫んだ。だが、崩れ落ち地面にひれ伏した愁弥は動かなかった。
ただ……ブラッドだけは……、斧を握り彼を哀しそうに見つめていた。
「お前!! 殺してやる!! ふざけんなっ!!」
ルシエルであった。
彼はそう叫び自身の身体に黒い煙を纏った。だが、それを見ていた老女カルラが立ち上がった。
「“
彼女の持つ樫の杖がルシエルと愁弥、ヘルハウンドに向けられたのだ。
正確に言えば……ルシエルなのだが、その魔力は彼等全てであった。彼等を包囲したのだ。
倒れている愁弥、黒紫の円球に包まれたルシエル、ヘルハウンドはその魔術で黒煙に包まれた。彼等はそこから消えたのだ。
「……カルラ様……」
ブラッドは樫の杖を持つカルラに目を向けた。
カルラは杖を直方……つまり、ルシエルがいた所に向けたままため息ついた。
「彷徨う……“生と死を”……。けれど、それは何が正しいかは教えてはくれない。見定めるのは己。我は……“縋る”……。」
項垂れた紫と白銀の長い髪は揺れる。老女はそこまでふくよかではない。どちらかと言えば可細い。煌めく玉座の前で白きローブを着た華奢な老女は、黒い煙に包まれ始めた。その身体が。
「カルラ様!!」
肩が異様に膨れあがった。可細いその両肩が、突然、筋肉を鍛え上げたマッチョメンの様に太くなったのだ。それを見て叫んだのはクリュトであった。禍々しい黒い煙に彼女は包まれている。
「……な……何だ?」
ブラッドはその異形とも言えぬ姿に変わろうとしてるのを見てそう言った。だが、隣のクリュトはロッドを向けた。
「今はまだ“速い”!!」
その声にブラッドは隣を見たが、クリュトは既に人間から“モンスター”へと、変化をしようとしているカルラにロッドを向けていた。
「“革変”は死を伴う。けれど、それは“種族”を護ることになる。僕はそう信じてます。」
ブラッドはクリュトの最後の言葉を聞いた。だからか、彼は何も言えなかった。クリュトはカルラにロッドを向け叫んだ。
「“
それは玉座のあるこの洋間を金色の光が包み、黄金の馬が駆けた。
ブラッドはその眩さに目を庇う様に腕を上げた。
駆け抜けたーー、金色の馬は羽を広げモンスターに変化しようとしたカルラの身体を。まるで突き抜けるかの様に。
「な…………」
薄目でブラッドはその光景を見た。まるで、心臓を馬の頭は突き抜け、その馬体は彼女の華奢な身体を駆け抜けたのだ。文字通り。まるで貫通。ブラッドはそれに驚いた。
更にその金色の馬は床に倒れ伏している、瑠火の身体をその口で挟んだ。それは飼葉を咥えるかの様に。
「おい! 瑠火殿を喰ったぞ??」
ブラッドはそのまままるで地に吸い込まれるかの様に消える金色の馬を見つめた。
「
クリュトはそう言うとロッドを降ろした。
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