第5話  東京:『久我愁弥』

ーー気がついたら一面。雪景色だった。

 

 しかも猛吹雪。

 

 「……どうなってんだ? ここはどこだ?」

 

 俺は……なんでこんなとこにいんだ?

 

 

 辺りを見回してはみたが、何もない。

 

 あるのは雪だけだ。

 

 しかもめっちゃ寒い!!

 

 まじか。

 

 冬服っちゃー冬服だが、この猛吹雪の中では、役に立たねーだろ。

 

 ダウンジャケットでもアブねー。

 

 つーか。ヤバい。

 

 コレは死ぬ!

 

 どうにかしねぇと。

 

 ひたすら歩くしかない。

 

 とにかく。

 

 積雪何センチなんて気にしてられないが、膝ぐらいまではヨユーである。

 

 掻き分けて歩くなんて、都内在住の俺からしたら、そう何度も経験した事があるものじゃない。

 

 

 そう……俺は。

 

 都内のフツーの高校生だ。

 

 さっきまでは。

 

 いつものメンバーと○ックでくだらねーこと、話して街中彷徨いて、帰ろうとした時だった。

 

 仲間と別れたあとで、ふと気になったのはその“雑貨屋”みてーなとこだった。

 

 

 なんとなくだった。

 

 そんなとこ普段なら入らねーんだけど。

 

 入ってみちゃったんだな。これが。

 

 ガチャ……

 

 OPENになってるからそりゃ開いてるよな。

 

 普通に開いた事に、なんでかびっくりしたんだ。

 少し。

 

 どう見ても胡散臭い。

 

 変なタペストリーみたいのがたくさん飾ってある。

 

 なんか、どっかの王国とかの旗? とかでありそうな柄だ。

 

 龍やら獅子やら、剣やら盾やら。

 しかも全部、紅だの黄色だの、緑だの。

 派手なモンばっかだ。

 

 けど、ちゃんと円形のテーブルにアクセサリーっぽいのとか、並んでて店。ってのがわかった。

 

 だからか、安心して中に入ったんだ。

 

 それにウッドデッキ調でライトも暗めのオレンジ。

 悪くねーな。

 

 こうゆう雰囲気は嫌いじゃない。

 

 ウェスタンっぽい。

 

 だけど、壁にはそのタペストリーだ。ウェスタンじゃねーな。どう考えても。

 

 「いらっしゃい」

 

 

 声を掛けてきたのは、カウンターにいた男だ。


白い顎髭に白髪。

長そうだな。後ろで纏めてるっぽいが。


その服装が何とも言えなかった。アレだ。アラブ首長とかが着てるやつ。


白い布のワンピースみてーな服だ。

  

 「アクセサリーの店なんすか?」

 

 円形のテーブルは、三つ。

 ピアス、ネックレス、リング。

 

 それらが並ぶテーブルと、ブレスレットやバングル。アンクルなんかが、並ぶテーブル。

 

 ベルト、チェーンベルト。チョーカー。なんかが並ぶテーブル。

 

 素材はシルバーや、金、プラチナ……は、流石にケースに入ってるみてーだ。

 

 それ以外はテーブルの上に並べてあった。

 

 「“御守り”なんですよ。」

 

 その声を聞いて……60近いんじゃないかと思った。嗄れていた。


俺より背は低い。

けどなんつーか……“威圧感”みてーのがある。老人とたった一言で片付ける風格じゃない。


どんな人生送ってきたんだろう? と、興味深くなる“眼つき”をしていた。


それに真紅の眼だ。


綺麗な色だがちょっとおっかねーな。瞳はブラウンっぽい。でも見透かされそうな瞳だ。

 

 「御守り?」

 

 俺はそう聞き返しながら、ネックレスメインのテーブルに視線を向けた。

 

 とても気になるモノがあった。

 

 インスピレーションって言うのか?

 

 ひと目見て惹かれるってやつだ。

 

 自然と手に取ってたんだ。

 

 「これ。いいっすね? 獅子っすか?」

 

 ライオンと言えばいいものを、なんでか獅子と言ってた。ライオンって言葉よりもソッチの方が、しっくり来る感じだったんだ。

 

 金の獅子。

 吠えてるその口元には紅い宝玉。

 

 これはルビーか?

 

 なんかすげー綺麗な石だな。

 それにこの金の獅子がすげーかっこいい。

 

 「おや。それが気に入りましたか?」

 

 親父さんのなんか嬉しそうな声を聞きながら、俺は手にしてたネックレスを見てた。

 

 チェーンも金だ。

 細いけど。

 

 「ああ。けど高そうだよな。」

 

 何しろ“高校2年生”だ。それも筋金入りの“親の金アテに生きてる感じ”。

 

 バイトなんてしたことねー。

 

 仲間とウロついてケンカとかしてる方が楽しいしな。

 

 「千円ですよ。今なら“ディスカウントウィーク”なんで。」

 

 「え!? まじで!? 千円!? 金だよな!?」

 

 まじか!!

 

 千円って安すぎるだろ!

 

 ん?? てことはまじモンじゃねーのかな?

 

 まーでもいいよな。このデザイン。すげーカッコいいし。それに……惹かれた。ってのが、なんか気になるしな。

 

 買いだな。これは。

 

 そうと決まれば早い。

 

 俺はうだうだと悩む脳みそは持ってない。

 

 親父さんの所に行くとカウンターの上に置いた。

 

 「買う。」

 

 制服のズボンのポケットから、財布を取り出した。

 

 姉貴が海外で買ってきてくれたブランドモンの、財布だったりする。

 

 かなりお気に入りだ。

 

 「そうですか。たしか……“良く歩いてます”よね? 見かけますよ。君のこと。」

 

 と、親父さんはそう言った。

 

 俺は千円札渡しながら、親父さんの顔を再度しっかりと見てた。

 

 細面なんだけど、なんか年がよくわかんねー顔だ。シワとかもねーし。

 

 それにこの細い眼。

 笑うと目が無くなりそうだな。

 

 「家が近いからな。ここは帰り道なんすよ。」

 

 親父さんは、千円札をレジにしまう。

 チーンと音がするちょっと古いタイプだった。

 

 スキャンするヤツじゃない。

 昔……どっかの“そば屋”で、見たことあるな。

 

 手打ちするんだったよな。

 

 どうやんのかはわかんねーけど。

 

 「そうでしたか。ありがとうございます。閉店するんで、最後に会えて良かったですよ。」

 

 と、親父さんはネックレスを袋に入れようとしてくれた。

 

 「あ。つけてきます。それ。」

 「そうですか。それはそれは。」

 

 さっきからすげー嬉しそうな顔をしてるな。閉店すんのか。最後ってことは、俺が最後の客ってことか?

 

 俺は財布をポケットにしまうと、親父さんからネックレスを受け取った。

 

 「俺が最後の客ってことっすか?」

 「ええ。もう閉めますからね。」

 

 俺はネックレスをつけながら、

 

 「そっか。間に合ったってことか。閉店間際にすんません。」

 「いえいえ。おやおや。とても似合いますね。」

 

 親父さんはネックレスを見ると、俺の顔と交互に照らし合わせてやっぱり笑った。

 

 「そーすか?」

 

 似合うと言われるのは嬉しいよな。

 やっぱり。特に自分が気に入って選んだものだ。

 

 

 「ええ。“久我 愁弥くが しゅうや”くん。」

 

 

 え!?

 

 

 「なんで俺の名前……」

 

 俺がそう聞こうとした時だ。

 

 カッ!!

 

 

 と、ネックレスが光ったんだ。

 

 それは眩しいぐらいの金色の光だった。

 

 俺は目を開けてられなかった。

 

 「間に合って良かったですよ。もう一日遅かったら……“あの娘”は、旅立ってしまっていた。そうなれば手遅れ。愁弥くん。どうか……“あの娘”……。瑠火を頼むよ。」

 

 

 は?? なに??

 

 ルカ??

 

 そこからの記憶はない。

 

 俺はその光に包まれてしまったから。

 

 

 

 

 「瑠火……。ワシにできるのはここまでじゃ。あの少年なら、きっと手を貸してくれる。良い心を持っておる。瑠火……。生きよ……」

 

 

 愁弥のいなくなった店内で、更にその男性の姿が金色の光に包まれ消えた。

 

 その姿は影もカタチもなくなった。

 

 それは、愁弥にはわからない事だった。

 

 

 

 

 

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