第18話 二人の決意

 …夕食を終えると、僕はホテルの七階の自分の部屋に入って、母さんに電話した。

「テルくん!まだ宇都宮にいるの?…何であなたが怪獣に関わってるの?お父さんもビックリしちゃったし、ご近所もテレビ見てウチに訊きに来るしで大変なのよ!私」

 …通話が繋がるといきなり叫ばれて僕はビビった。

「ゴメン母さん…僕もまさかこんなことになるとは思わなかったんだ。古代史に詳しい友だちが、宇都宮に変わった古墳があるから見に行く?って言われてさ、面白そうだから一緒に来たら怪獣が出て来てこんな騒ぎになっちゃって…」

「…友だち?って、記者会見で喋ってたあの可愛い女の子?」

 母さんがそう突っ込んで来たので僕は一瞬戸惑ったけど、観念して答えた。

「…うん」

「へぇ~っ !? …あんな可愛い女の子がテルくんにねぇ!で、今はどうしてるの?」

「栃木県からか自衛隊からか分からないけど、鹿沼市のビジネスホテルに用意してくれたシングル部屋から今電話してるんだよ ! …鉄道も高速道路も宇都宮近辺は不通になってるから」

「…そう…分かった。とにかく自衛隊に怪獣をサッサとやっつけてもらって、早く帰って来てね、あの可愛い女の子と!…それから」

「母さん、僕も今日はすごく疲れてるんだ、シャワー浴びてもう寝たい。悪いけど切るよ、じゃあね」

 …話が長くなりそうな感じがしたのでそう言って僕は電話を切った。

 本当に僕は疲れていた。

 服を脱いでシャワーを浴びて寛ごうと思ったら、部屋の机の上にホテルの案内冊子があったのでパラパラと見てみると、このホテルには大浴場があるのを発見。

「おぉっ!手足伸ばしてゆったりお風呂の方がありがたいよなぁ、今日は…」

 思わず1人で呟いて僕は部屋のタオルを持って大浴場へ向かった。


 …大きな窓ガラスの向こうのライトアップされた箱庭を眺めながら広い浴槽に浸かると、思わず

「んあ~~~っ !! 」

 と声が出て身体の隅々まで解放されたような気持ち良さに包まれた。

( 旅の宿の大浴場でのんびり寛ぐって…最高だぁ ! )

 心中で呟きながらお湯の中で足を伸ばすと、今直面してる怪獣騒ぎなど遠い昔の特撮映画の世界のように思えて来る。

(明日、自衛隊はU ‐ ホークにどんな攻撃を仕掛けるつもりなんだろう?…やはり住民を避難させて戦車とか戦闘機とか物量作戦で火力攻撃かなぁ…でも、先生と甲斐路はそれには否定的な考えみたいだし…あの秘密兵器って、どう使うつもりなのか?…)

 湯船にへよ~んと浸かりながらも僕の頭の中ではぐるぐるとそんな思いが浮かんで渦巻いていた。

(そうだ、8時半頃に甲斐路が僕の部屋に来るんだった!)

 浴槽から出て頭にシャンプー着けて髪を洗っていた時、ふとそんな大事なことを思い出した。

( 耳元で囁かれたのに、何で忘れかけてた?…しっかりしろ自分!)

 という訳で僕は自分に喝を入れ、シャンプー後のリンスは省略して、服を着て部屋に戻った。


 …ベッドに横になるともうそのまま眠ってしまいそうなので、椅子に腰掛けてテレビを見ていたら8時半ちょうどにドアをノックする音がした。

「…ちょっと待って!」

 そう言ってゆっくりとドアを開けると、甲斐路が僕に一瞬の笑顔を見せて中に入った。

「…先生にナイショで僕の部屋に来てまでいったい何の話なの?…秘密兵器を使って僕と二人でU ‐ ホークと対決しようとでも言うつもり?」

 実はホテルの一室に甲斐路と二人という状況にニワカにドギマギしたのを誤魔化すように僕としてはちょっとしたジョークを飛ばしてみた。

 すると甲斐路は驚いた顔で言った。

「えっ !? …よく分かったわねぇ!意外と鋭い奴だぜ、乙ちゃん !! 」

 …驚きはそのままブーメランで僕に返って来た、

「えぇえっ !! マジ?…ちょっと何言ってるの?… U ‐ ホークは明日自衛隊が新たな攻撃でやっつけるはずだろ?」

 慌ててそう叫ぶと、甲斐路はぐぐっと僕に顔を近付け眉間にシワを寄せて言った。

「声が大きい!…あのね、一つ大事なことを聞いて良い?」

「えっ !? …何?」

 僕はもはやビビり気味だった。

「乙ちゃん、私に命預けられる?」

 甲斐路はまっすぐ僕の目を射抜くような視線を飛ばして言った。

「…えっ !? 何…何でそんなこと聞くの?…意味が良く分からないんだけど」

 そう言うと、甲斐路は一つ大きく息を吐いてから静かに話し始めた。

「乙ちゃん、自衛隊の火力兵器をどれだけ集中しようと、護神獣は倒せないよ!相手は底知れない能力を持ってる…住民を避難させて総攻撃なんてことになったら、それこそ護神獣対人類の戦争になっちゃう!…取り返しのつかない状況になる前に、私と乙ちゃんで事態を収めないと!…だから乙ちゃん、お願い !! 私に命預けてほしいの、今人類を救えるのは私たちだけなんだよ!」

 甲斐路は真剣に訴えていた。

 僕はしばらく甲斐路の言葉を頭の中で反芻していた…。

 しかし考えてみれば甲斐路は今までたった一人で学習し、足を運び、現地を見て感じて調べて事態を予想し、そしてその通りのことが起こって今現実この状況になっている。…彼女の言うことに間違いは無いと僕には思える。

 その彼女が今僕にこの命を預けられるかと訊いているのだ。


「…分かった、僕の命を預けるよ!それで、助手は何をすれば良いの?」

 僕は覚悟を決めて応えていた。

















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