第17話 秘密兵器

 県庁の玄関前から、僕たちは再び間森一佐の運転する車に乗せられ、今夜の宿に向かった。

「…それにしても、何故U - ホークは塚山古墳から動かないのかな?もう市民を襲うことは無いんだろうか?」

 動き始めた車内で僕がそう呟くと、甲斐路が答えた。

「たぶんU - ホークは…待っているのよ」

「えっ ! 待ってるって…何を?」

 僕がそう言いかけた時、先生が

「間森さん、途中で寄って頂きたい所があるんだけど、よろしいかしら?」

 と告げた。

 …車は市街の中を先生の指示でちょっと遠回りして、大通りから横道に入り、8階建てのマンションの前に停まった。

「部屋から持って来たい物があるから、ちょっと待ってて下さい」

 先生はそう言って車を降り、マンションの中に入って行く。…どうやらここは先生の自宅らしかった。


「お待たせ ! 」

 4~5分して戻って来た先生の手には、大きく膨らんだトートバッグが握られていた。

「秘密兵器よ!」

 小声で僕と甲斐路にそう言って先生が後席に乗り込むと、間森一佐は静かに車を発進させた。

 …車は市街を抜けて景色が暗がりの中に沈み始めた郊外へと走る。

 宇都宮市民の人たちはU - ホークに居座られて、家にこもり恐々としてるかと思いきや、実際には車などで動いたりはしないものの、街角を散歩したり買い物かごを手に提げて普通に歩く姿をあちこちで僕たちに見せていた。…どうやら怪獣が直接街を破壊するようなことは無いと判断してるみたいだった。

 鹿沼市は宇都宮市の西側14キロに位置する隣町…例によって甲斐路は県別マップル (道路地図) を見て確認していた。

 …県庁から20分足らずで車は東北道鹿沼インター近くのビジネスホテルに着いた。

 そこは近年新しく出来たばかりとのことで綺麗な外観のホテルだった。

 僕たちが車を降りてロビーに入ると、間森一佐がフロントで手続きした後で、

「それでは皆さん、今夜はゆっくりと身体を休めて下さい。私はこれで失礼します。明朝は8時半にまたお迎えに伺います。その時には目標に対する攻撃作戦も決定していると思いますのでまた明日、ご協力願います。では本日はこれで!」

 と言うとサッと敬礼して踵を返し、玄関を出て行った。

「何か…カッコいいなぁ、間森さんて ! 」

「…結婚してらっしゃるのかしら?」

 間森一佐が去った後で女子二人が急にそんなことを言い出し、僕はなぜかちょっと不機嫌な気持ちになったけど、別にそれは嫉妬心からじゃなくてたぶん空腹感からだと思う。…だってよく考えたら朝、宇都宮に向かう電車の中で駅弁を食べたっきりで昼御飯も何も全くお腹に入れていない。

 まぁそれは甲斐路も先生も一緒なんだけど…。

 ちなみにこのホテルには居酒屋風の食事処が一階にあって、すでに営業時間に入っていた。

「それじゃ、部屋に手回り品を置いて来て、食事処で晩御飯を頂きましょう!もちろん私が奢るわよ」

 掛賀先生がそう言って、甲斐路と僕は疲れた顔色がパァッと明るくなった。

 僕たちの部屋は七階、シングルルームが一人一室づつ与えられた。

 荷物を部屋に投げ込むように置くと三人とも腹ペコなので素早く食事処に集まり、テーブル席に腰を降ろす。

「とりあえず私は生ビール!…君たち少年少女はウーロン茶ね ! 」

 先生が楽しそうに叫んだ。

 …僕と甲斐路はお腹にたまりそうな一品料理を思い思いに頼んでガツガツと食べた。何しろ昨日は原付で埼玉古墳にデイツーリング、そして今日は宇都宮に来てこの未曾有の事態と遭遇…疲労感と空腹感は半端なかった。

 思えば一昨日は滝に飛び込むような覚悟で僕は甲斐路に告白したんだった。その後僅か二日間でこんなハード&スペクタクルな展開になるなんて思いもしなかった…。美女美少女とホテルにお泊まりということにはなったけど、もはや今さらイチャラブストーリーになど間違ってもなる訳無いよなぁ。


「乙ちゃん乙ちゃん !! 」

 …気が付けば甲斐路が僕に叫んでいた。

「えっ !? …んっ ! 」

「ちょっと何ぼ~っとしてるのよ!1984年度版ゴジラ、観たことある?」

 唐突にそう訊かれた。

「えっ、怪獣映画の話 !? …いや、ないけど…何で?」

 そう答えると、

「先生の持って来た秘密兵器の話よ!あのね、実は鳥って生物学的には恐竜の末裔なの。…1984年度版の映画でゴジラは鳥の鳴き声に反応するシーンがあって、クライマックスへの重要なカギになるのよ。元々はゴジラも核エネルギーを吸収して巨大化した恐竜の変異体だから、そう考えると頷けるわね。で、先生は周波数を変えられるスピーカーを作ったの。鳥の声と同じ周波数にも出来るのよ!」

 甲斐路が勢い込んで僕にそう話をぶつけて来た。

「それが…秘密兵器、なんだね ! 」

 やや甲斐路の熱量に気圧されながら先生をチラッと見ると、すでに生ビールの空ジョッキを3つテーブルに並べて目がへよ~んとなりつつ甲斐路の言葉に小さく頷いていた。

「で、その秘密兵器でどうするの?」

 そう質問すると甲斐路は突然顔をグッと近付けて来て、僕の耳元で囁くように言った。

「それは、後で乙ちゃんの部屋で話す ! 8時半頃に行くから…先生にはナイショで!ねっ」

「えっ !?…」

 僕は思わぬ展開にびっくりして、かついきなり甲斐路の吐息を耳元に感じて身体を固くしてしまっていた。





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