第9話 緊急対策会議
…小雨がそぼそぼと降り始めた中、間森一佐の運転する車は、多気山から15分ほどで、宇都宮市街の中央に位置する、威風堂々とした15階建ての栃木県庁正面玄関前に到着した。
玄関扉前には迷彩服の自衛隊員が入り口両脇に立ち、車を降りた僕たちを敬礼して迎えた。
その物々しい雰囲気にビビって緊張感が半端無い僕だったけど、甲斐路と先生は軽く会釈してチラッと微笑んで建物内に入って行く。
(くそっ、何なんだあの女子二人の余裕は !? )
僕は唇をかんで女子二人とともに間森一佐のあとについて行く。
広々とした一階エントランスホールの奥のエレベーターに乗り、4人で最上階へ向かう。
四角い庁舎ビルの15階は東西南北の四面が大きなガラス窓の展望ラウンジになっていて、それぞれの方面に宇都宮市街が一望出来る。…その中の南側ラウンジに、折り畳み式の机やパイプ椅子、モニター機器類が用意されていた。その配置もモニター機器を前にして机と椅子が半円形に並べられ、いかにも臨時作戦会議室といった格好になっていた。
すでに制服姿の自衛官数名と、スーツ姿の年配のおじさん数名が席に着いていて、僕たちの姿を見ると軽く会釈をしたが、その表情はいかつい顔のままだった。
僕と甲斐路と掛賀先生は市街展望風景の広がる大きな窓ガラス際の席に促されて着席した。
「…出席者が揃いましたので、巨大鳥緊急対策会議を始めます。私は陸上自衛隊北宇都宮所属の多々貝一 (たたかいはじめ) です。時間がもったいないので会議メンバーの紹介は私からさせて頂きます。…」
体格の良い40歳くらいの自衛官が僕たちの前に立って進行役を務め、さっそく会議は始まった。
多々貝自衛官が紹介した主な出席者は、間森一佐他の陸自宇都宮駐屯地及び北宇都宮駐屯地の自衛官数名、服田栃木県知事、嵯藤宇都宮市長、富士田宇都宮中央警察署長、元澤宇都宮東警察署長などだった。…それに続いて宇都宮大学教授の掛賀先生も紹介されたが、先生が生物学者であることを僕はこの時に初めて知った。
そのあと、甲斐路 優と僕も先生の助手として紹介されたので他のお偉いさん方に会釈をしたら、自衛隊のいかにも階級の高そうなおじさんに、
「掛賀先生の助手ということは…大学生かね?」
と訊かれたので、甲斐路が
「いえ、高校生です」
と答えると、驚いた顔で
「この未曾有の災害案件の、しかもあの巨大鳥に対して高校生の少女を対策メンバーに加えるというのか !? 」
と言われてしまった。
すると即座に掛賀先生が反応した。
「この未曾有の事態を確かな根拠を持って予見していたのは他ならぬこちらの甲斐路さんただ一人ですよ!この事態の打開策を考える上で、彼女の協力は必要不可欠です。人を軽んじる発言は控えて下さい!」
毅然とした先生の言葉に、会議室のメンバーがざわついたが、多々貝自衛官が、
「静粛に願います!」
と叫んでざわめきが収まった。
「只今、防衛省幕僚長並びに暗部心造(あんべしんぞう)首相と回線が繋がりましたので、これよりこちらのモニターを通してこの会議に出席して頂きます!」
多々貝自衛官の隣には80インチの大画面モニター1台と40インチの小型モニター2台が用意されていたが、その2台のモニター画面に幕僚長と暗部首相の顔がパッと映った。
その瞬間、緊急会議室の自衛官が起立してモニター画面に敬礼したので僕はビックリしてしまった。
「皆さん、会議を続けて下さい」
モニター画面の暗部首相がそう言った。
「鳥による現在の被害状況は?」
防衛省幕僚長から、モニター越しで質問が来た。
「東北自動車道大谷パーキングエリア北2キロ付近、及び東北新幹線宇都宮駅南4キロ付近が鳥に攻撃されました。これによる車両事故のため死傷者が多数…まだ正確な人数は確認出来ていませんが、少なくとも死傷者400人以上発生と思われます!なお、現在東北自動車道は鹿沼~矢板間が通行止め、東北新幹線は小山駅~那須塩原駅間が不通、JR東北線小金井駅~宝積寺駅間が不通、その他宇都宮市付近の主要道で交通規制、ならびに鉄道に関しても JR日光線、LRT、東武宇都宮線で運転見合せ等の措置を取っています」
多々貝進行役が答えた。
「鳥の状況は?」
今度は暗部首相が質問する。
「鳥は身長45メートル、飛行時の翼長80ないしは90メートル、現在宇都宮市西川田の塚山古墳に降りて活動停止中。羽根をたたみ目を閉じた状態のため、休息しているような印象です」
答える多々貝自衛官に、掛賀先生が発言した。
「あの巨大鳥への対処は?」
するとすかさず服田県知事が、
「それはもちろん、直ちに排除ということでお願いしたい!」
と声を上げた。
と、その時会議室内の間森一佐に情報が入って来たらしく、間森一佐は多々貝進行役に駆け寄り、敬礼して大きな声で言った。
「陸自北宇都宮管制室より報告!巨大鳥に飛行体4機が接近中、マスコミの報道ヘリと思われます!」
「何だと !? 」
思わず会議室メンバーが全員立ち上がって窓の外へ一斉に視線を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます