第8話 間森自衛官への指令

「あの鳥の近くに行きたいって?…それはいくら何でも危険だよ!それにこういう事態になったら間森さんだって所属の基地に戻らなきゃならないんじゃ?…僕と君はもう家に帰るべきだと思うけど!」

 僕は甲斐路 優の言葉に驚いてそう言った。

「被害というのは?」

 掛賀先生が間森一佐に質問する。

「宇都宮市内にて、東北自動車道と東北新幹線が鳥に攻撃され、多数の死傷者が出ました。現状でJR東北本線含めて不通となった模様です!」

 間森の報告に、甲斐路がニヤリと笑って言った。

「あら!…それじゃあ私も乙ちゃんも帰れないじゃん」

「そんな ! …」

 僕は思わずしゃがみこんでしまった。

「巨大鳥は強い攻撃性を持っていると思われます。我々は鳥に接近することは出来ません。鳥は現在、市街南部の塚山古墳に降りて動きを止めています。所属駐屯地に近い所なので私には、帰還せず次の指示あるまで皆さんと安全確保の上調査続行せよ、との命令です ! 」

 間森一佐が相変わらず表情を崩さずに言った。

「それじゃあ、多気山の周りを車で回ってみましょう、鳥の出現場所が知りたいわ ! 」

 掛賀先生がそう言って、僕たちは車に乗り込んだ。

「もうっ!鳥の姿を見たいのにぃっ !! 」

 甲斐路 優が悔しげに呟くと、

「我々の方でドローンを飛ばして目標を撮影しますので、まもなく車のモニターに鳥の映像が来るはずです!」

 車を発進させながら間森一佐が言った。

 その時、掛賀教授のバッグから携帯の着信音が鳴った。彼女がバッグからそれを出して見ると相手は栃木県知事だった。

「…分かりました、すぐに折り返します!」

 短い通話の後、いったん携帯を切って掛賀教授が僕たちに言った。

「県知事から質問が来たわ ! 鳥に対して市民を至急避難させるべきかどうか?って」

「…………!」

 車内は一瞬の沈黙に包まれたが、甲斐路が最初に反応した。

「鳥はまず高速道路と新幹線を攻撃してます ! おそらく早い速度で動く物を襲う性質なのかも !? …だとしたら多勢の人を今避難させるのは危険よ!逆に外出禁止にして建物内に留まらせるべきだわ !! 」

「…でも、市民を避難させないと自衛隊も鳥への攻撃が出来ないんじゃ?…市街地で火力兵器は使えないよね ! 」

 僕も自分の意見を発言した。

「いや、何よりも市民の安全が最優先です!鳥への対処は状況を踏まえて我々が作戦を考えます !! 」

 間森一佐の答えを受けて、掛賀先生が知事に折り返しの電話を入れた。

「掛賀です!避難行動は逆に鳥を刺激し、攻撃される恐れがあります。市民には建物内から出ないよう呼びかけて下さい!…はい、脅威に負けずに Stay Home ってことで !! 」

「…何か、今の聞いたことあるフレーズだなぁ」

 僕が甲斐路に言うと、

「ほら、以前の…新型コロナ騒ぎの時のやつだよ」

 甲斐路が応えた。


 車は国道293号線から田野町交差点を右折して森林公園通りに入り、市街から見て多気山の裏側、北西山麓に回った。

 その時、車の運転席脇のモニターに鳥の映像が動画送信されて来た。

「うわぁ ! …これが鳥ね !! 」

 甲斐路と掛賀先生が同時に叫んだ。

「まるで鷹にそっくりね。脚が大きくて、付け根の筋肉が発達してる…今止まっている塚山古墳の大きさが、え~と…」

 掛賀先生の言葉に甲斐路が素早く答える。

「長さ98メートル、幅60メートル、高さ8、4メートルの前方後円墳です ! 」

「さすが優ちゃん ! …ってことは映像から見て2足直立時の身長は45メートルってところかしら?」

 …僕たちが鳥の映像を見ながら話していると、間森一佐がブレーキを踏んで車を道の端に停めた。

「あそこ、山の斜面が崩れています!」

 彼が指さす方向を見上げると、確かに山の中腹部分が崩落して、山林の中でその部分だけ地肌が露出していた。その奥には空洞らしき穴があるようにも見える。

「…昨日の地震で崩れたのかなぁ?」

「いずれにしても鳥はあそこから出現したようね!」

「UFOの指示で…?」

 車を降りた僕たちは口々にそう言って、女子二人は携帯で崩落部の写真を撮った。

 すると、少しして間森一佐が叫んだ。

「新しい指令が来ました!…我々4人とも至急県庁に来るようにとの指示です、庁舎内に巨大鳥臨時対策会議室が設置されたので、自衛隊と合同で対処にあたってほしいとの要請です!」

「えっ !? 」

 さらに大変な事態になって来たことに驚く僕に、

「乙ちゃん、早く車に乗って!県庁に行くよっ !! 」

 目に闘志を浮かべた甲斐路が言った。

( 何で僕がこんなことに巻き込まれなきゃならないんだ !? もう帰りたいっ、家に帰りてえ~っ !! )

 僕は心の中で叫んでいた。


 しかし僕たちを乗せた車は多気山から再び宇都宮の市街に向かって走り出し、その車内では女子二人が僕の心中など全く知る由もなく鳥の話で盛り上がっていた…。

















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