第3話 護神獣の存在

 …初めて訪れたサキタマ古墳公園はやたらと広かった。

 地元の人たちが散歩したりしてるのどかな公園風景の中に大きな古墳が (と言っても小高い丘にしか見えないけど…) 3つあり、僕たちはまず駐車場からいちばん近い「丸墓山古墳」へ行った。

 ここはその名のとおり、お椀を伏せたような形の「円墳」で、正面に階段が造られてあり登ることが出来る。

 階段下には古墳の説明板があり、それを見ると、この古墳の直径は105メートル、高さは19メートルで、日本最大の円墳とあった。

 6世紀前半頃に造られたと推定されているものらしい。

 …僕が説明板を読んでいるうちに、甲斐路 優はさっさと階段を上がって古墳の上に登っていた。

「乙ちゃ~ん!早く来なよ~っ !! 」

 彼女は上から僕に叫んだ。

「…オッちゃんて呼ぶのは恥ずいよ!」

 僕はそう呟きながら慌てて階段を上がる。


 …墳丘の上では彼女が春風に吹かれてボブヘアの髪をなびかせていた。

「ほら、あっちのは前方後円墳だよ!」

 そう言って彼女が指差した方向を見ると、確かに円と台形を合わせたような形らしき古墳が2つ、公園内に横たわっていた。

 そして公園の回りには所々に菜の花などが咲いてたりして、史跡らしい物々しい感じなど全く無い本当にのほほんとした春の景色が広がっていた。

「…何だか、へよ~んとしてて良い所だね」

 僕が何気なくそう言うと、彼女は急に真面目な顔になって、

「ねぇ、乙ちゃんは古墳って本当のところ何だと思う?」

 と訊いて来た。

「えっ !? …古墳は、アレでしょ!…昔の豪族とか、権力者の墓じゃないの?」

 不意の質問に、あたふたして答えると、彼女は向こうの前方後円墳を見ながら言った。

「私の考えはちょっと違うの…!」

「えっ !? 」

 僕は彼女の言葉にちょっと驚き、(そういえば古墳に興味がある訳でもないって言ってたなぁ) ということを思い出して、次の言葉を待った。

「…だって、お墓にしてはむやみやたらに大き過ぎるし、わざわざ土を盛って小山にする必要性も無いじゃん ! 」

「…う~ん、まぁだからそのへんはホラ、権力やら財力の誇示とかじゃないの?」

 何となくそう応えると、

「でも、日本のあちこちの古墳が揃って円と台形を組み合わせた形って、何だか不思議だと思うの!…権力の誇示なら、もっと好き勝手な形にしても良いはずだし…」

 彼女は納得しきれぬ様子だった。


 丸墓山古墳を見た後、僕たちは隣の前方後円墳、「稲荷山古墳」に行った。

 ここもまた古墳の前に説明板があり、全長120メートル、幅62メートル、高さ11メートル、5世紀後半に造られたとあった。

「…実際のところ、埴輪とかの副葬品は発見されてるけど、どんな人を埋葬してたかとか、ハッキリしたことはほとんど分かっていないのよ…」

 甲斐路 優が独りごとを呟くように言った。

「…で、結局キミは古墳ってのは何だと解釈してるんだい?」

 僕は思い切って質問してみた。

 …すると彼女は僕の顔をまっすぐに見つめて、

「乙ちゃん、私の言うことを聞いて秘密守れる?」

 と訊いてきた。

「えっ !? …もちろん守れるさ!」

 反射的に僕が答えると、彼女はひと呼吸置いて話し始めた。


「…たぶん、古代人とか5~6世紀頃の人たちは、地球外生命体…いわゆる宇宙人と交流があったのよ!…この前方後円墳の形とか、あるいは海外のナスカの地上絵とかイースター島のモアイ像とかって、どう考えても上空からの視線を考慮して造られていると思うの!…これらが造られた時にはまだ人類は空を飛ぶことは無かったのにね」

「………!」

「だからこれらは、"上空からやって来た者" たちが造ったか、もしくはその者たちが指揮して人類と共同で造ったのよ!」

「……… !? 」

 突然、飛躍した話になったので驚いていると、

「だから、古墳に埋葬されていたのは元々は地球外生命体、それも相当高度な知能を持った者だったんじゃないかな!」

 彼女はそう言い切った。

「…それは…ずいぶん突飛な説だね、じゃあ何で古墳は土盛りして丘にする必要があるの?」

 僕がそう言うと、

「UFOポートよ!…飛行体が発着出来るようにこの高さと形が必要だったのよ」

 彼女がキッパリ答えた。

「…だけど、私が興味あるのは実はその先の話なの!…」

「その先の話?…」

「古墳に埋葬体とか副葬品を安置して、宇宙人が地球を離れた後、盗掘やさらには古墳自体の破壊行為を受ける可能性があるでしょう?」

「…そうか、まぁ地球人にとっちゃお宝だもんなぁ、埋葬品は」

「だから、当然その対策もなされてるはずと思うのね ! 」

「…なるほど、で?…その対策って、君は何だと考えてるの?」

 僕がそう質問すると、彼女は口元に笑みを浮かべて答えた。

「護神獣の存在よ!」


 もはや彼女の話は僕の思考の範囲を超えてしまっていた…。





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