決意と信じる心

 ここは母屋。2階までは石とモルタル造りだけど、3階からは木製だ。

 とはいえ、用があるのは2階にある一室。入ってすぐに、そこが彼女の私室だと分かる。


 とっ散らかった服。積んだままの下着。ベッドの脇に転がった酒瓶。机の上には虫がたかった空の銀皿が積んである。

 思わず「蛮族ですか?」とツッコミを入れてしまいたくなるほどに、だらしのない部屋だ。

 というか、もう何日掃除をしていないんだろう。


 絶対に自分でやるタイプには見えない。となれば、ここの掃除もミリーちゃんか?

 かなり日々の仕事は大変そうだ。だけど同時に、それはいなくなってからの時間を表している。かなりの日数だ。


 無造作に僕を机の上に置くと、クローゼットを開く。

 中身はどれも春物だ。その点はしっかりと入れ替えているのだろう……ミリーちゃんが。

 暫し悩んだ末、背中の大きく空いたグレーのミニスカートのワンピースを取り出と、おもむろに下着を脱ぎ始めた。

 そして床に転がった下着を拾っては、クンクンと匂いを嗅いでポイと捨てる。


 うん、こんな姿、誰にも見せられないぞ。

 というか、僕が見たと知られたら間違いなく殺される。今そうなっていないのは、あくまで僕がただの小動物だからだ。

 人並みの知恵を持っていることを知られたら終わりだ。


 だけど――いいの、このままで?

 多分だけど、彼女は外に出て、不審者の事を報告するだろう。

 家探やさがしが行われ、その間、彼女には護衛が付く。

 いつまで? そりゃあ、不審者が見つかるまでか、事態が変化するまでだろうさ。

 だけど不審者は見つからない。事態の変化……それは好転だろうか? いや絶対に違う。僕には見える。世界がグニャグニャ歪んでいるのが。そして歪んだ所から、何かがじわりじわりと染み出している。これは良くない事だ。


「まあ、これで良いわね」


 そんな事を考えている内に、あちらは衣装を決めてしまったようだ。

 当初の予定していた、背中が大きく空いたグレーのミニスカワンピースに、奥に仕舞われていたのであろうロングの毛皮のコート。どうやら下着をつけるのは諦めた様だ。まああれなら見えないだろうけど。


 でもどうする? 結局何も無しか? ダメだダメだ、絶対にダメだ。

 考えろ! 勇気を持て! 手段はあるはずだ!


 そうだ――ケティアルさん。一発で昇天してしまったけど、彼には何か策があった。

 絶対的な自信があったんだ。今回はダメだったけど、ダメにしたままで良いの?

 違うよ。それを変えるのが、僕に与えられた使命なんじゃないか。

 考えるんだ……そう、考えろ。僕らは4年も一緒にいたんだ。

 ケティアルさんはどんな人だった? 何をしていた人だった? 性格は? 言葉遣いは? 全部思い出すんだ、彼の言葉の全てを!


 ――要はちんこだよ、ちんこ。

 ――女の扱いは俺に任せな。

 ――デカさ、硬さ、持久力。どれをとっても、俺より優れた奴なんていないぜ。

 ――俺にとっちゃあ、処女だろうがイチコロよ。

 ――泣かした女は数入れず。まあ、それがジゴロの宿命ってやつよ。



 ……だめだ、内容がさっぱり理解できない。ちんこが何だって? また潰されるだけだぞ。

 それにさっきはケティアルさんがやられたけど、中身が僕だったらどうなるんだ?

 考えるまでもないよ。僕がああなるんだよ!


「テンタ! 何処にいったの? 急いで外に出るわよ!」


 名を呼びながら手をパンパンと叩く。向こうの準備は完了してしまった。もう、僕も心を決めるしかない。

 ケティアルさん……信じているよ。

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