[S]anctimonious [F]able
伊島糸雨
Imitation
殺しても殺しても、彼女は死ぬ前の真っ新な状態で蘇る。死体も飛散した血液もが瞬く間に分解され、人体を構成する要素として彼女を再構築する。全身を巡るナノマシンによってタグ付けされた”彼女”という存在が、3Dプリンターによって再生される。直前に保存された記憶がサーバーからダウンロードされて、彼女は私の前に立つ。「どうしたの、そんな顔して」
そしてまた、私は彼女を殺す。綺麗になった包丁を何度も何度も何度でも彼女の血液で染め上げる。冷や汗と涙とで皮膚を湿らせながら、この得体の知れない女を滅ぼしたがっている。
誰も彼も、私だって、死んだらこうしてMP3の音楽みたいに再生を繰り返す。自動的に、誰も操作を加えることなく。
自分が干渉しえないどこかで蘇る分には無関心でいられた。無関係な人間が誰だろうと構わなかった。誰になろうと問題じゃなかった。そういう世界観で社会が回転していることへのどうしようもなさを、諦観という形で自然に呼吸していられたからだ。倫理も哲学も、手が届かなければ無意味だと言えた。だってそれは私に影響しない、私の中心は私なのだからと言い張れたからだ。
なんてことない事故だった。そして大切な人間が、愛してさえいたその意識が、眼前で死に、模倣されていった。
同じだけの質量、同じだけの分子で。
ずっと疑問だった。
その意識は純粋か。
その魂は、本当に私の知る女なのか。
「あなたは、誰なの」
「どうしたの、急に。カサネだよ。キタノカサネ。……忘れちゃった?」
その女は淡く微笑んで……間抜けな私を嗤っている。うんざりするくらい繰り返した問いかけは、うんざりするくらい同じ光景しか生み出さない。
だから、私が言うことも、為すことも、永遠に同じままだ。
「嘘つきめ」
そう言って、私は腕を振り下ろす。彼女は反応できない。そうだ、あの子は運動神経が壊滅的だったよね。ふざけるな、と何度目かわからない苛立ちに、力が籠る。
乳白色のセーターを貫いて、胸元に刃を捻じ込む。毎度少し変わる赤のグラデーションが、じわりと広がっていく。彼女は苦しげに呻く。悲鳴は出ない。
馬鹿な女。愚かな女。親友の姿を、名前を騙るなんて。
やっぱり、死んだほうがいい。
「その女は、2週間前に死んだよ」
私のつぶやきを理解することもなく、彼女は息絶える。
「どうしたの、そんな顔して」
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