どういじめたい?

色無 光

第一話 燃えないゴミ

 雨、ひたすら降り続ける雨が道路を染めていく。このまま雨に溶かされて流されて仕舞えば良いのに。電車は駄目だ、損害賠償が馬鹿にならない、だから今ここに座ってるのか。一面の景色は感情とは裏腹に雨と光の乱反射で煌めいている。きっと普通の人ならば大切な人とこんな景色を見て涙を流すのだろうと物思いに耽ってみる。熟考に熟考を重ねて導き出した結果がこれならば、私はとんだ無能なのだろうと言う客観的な自分の思考が決意をかき乱す。失う物は無く、得たい物も無いそんな人間はどの様にして生きていけば良いのか。ただただ無言の熟考が繰り広げられるが時間は一向に進まない。

 時代はかなり変わったな。下の地面を見れば、人は長方形の機械を握り締めなければ生きていけない世界になった。ここからでもそれをイジる画面がそこら中光って見える。坂本九が生きていればなんというのだろうか。

 とうとう、その決意は思い腰を上げて元いた場所へ帰った様だ。彼はとても饒舌ジョウゼツで私の扱い方を知っている、まるで私に親友が居たならばそれの様に。雨は止んでしまって緑色の月が顔を出す。今この世界で私の様に一人憂いを感じている人と横に座っているのだとしたらどんな会話をしただろう、互いの悲しき運命に同情しただろうか、運命には打ち勝たなければならないと激励ゲキレイしただろうか、あるいは私の事を全くもって知らない貴方に何が分かるのかとノノシりあっただろうか。何にせよ、この全ては妄想で実体を持たず何の進展もない。無意味で非効率的な時間が生まれただけであった。妄想にはもう飽き、自責の念にも十分痛ぶられ、体は芯から冷えた、そう考え、感じた私は取り敢えず鉄塔の最上部から降りることにした。

 ここの鉄塔はお気に入りで川の真ん中に立っていて雨の日にしか来ることが出来ない。もちろん、人に見つかってはいけないし、何より濡れても良い日にしか川には入れない、小雨コサメ程度の時に登るのが望ましい。そして、彼が去った頃に雨が止み増水した川に飛び込む。危うく流されそうになったこともあったが岸に辿り着く度、信じてもいない神が自分についていると信じ込ませていた。全くその時の自分は躁状態であり先ほど迄の自分とは違い、この次の行動が毎度毎度求めていない結果を生む。そんな脳が溶けかけている状態で、びしょ濡れのまま自分の倉庫への帰路へと着く。

『乾かそう、』

『あぁ、時間なら沢山あるゆっくり乾かせば良いさ!、お前に今できないことはねぇ!』

 そう独り言を呟いて歩いていくのだった。

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