第4話

次の朝、目を覚まして大きな白い羊はぎょうてんしました。

 大事な鉢植えがありません。

 あたりには黒くて硬い巻き毛がたくさん散らばっています。

「これは困った。

 きのうの夜、わたしが寝ている間に黒い羊さんが鉢植えを持っていってしまったんだ。

 あれはわたしにしか育てられないんだ。

 なんとかして返してもらわないと……」

 白い羊は大あわてで服を着ると、点々と落ちている黒い巻き毛をたどって、黒い羊の家へ急ぎました。


「黒い羊さん、黒い羊さん、開けておくれ。

 わたしだよ。白い羊だよ。

 開けておくれ。お願いだから……」

 白い羊は家の扉をとんとんとたたきつづけました。

「……なんだよお、こんな朝っぱらから……」

「ごめんよ。

 きみ、きのうの夜、わたしの家から鉢植えを持っていかなかったかい?

 それを返してもらいに来たんだよ」

「なっ……、なに言ってんだよお。

 おれがどろぼうしたっていうのかあ?」

「そんなことは言っていないよ。

 でも、間違いっていうことがあるだろう?」

「知らないよ。なんのことだかさっぱりわからんね。

 だいたいおれがなにを盗んだって言うんだ?」

「鉢植えだよ。羊の……」

「へ? なんだって? 羊の鉢植えだとお?」

「そうだよ。きのう寝る前はたしかにあったんだ」

「おまえさん、頭がおかしいのかい?

 羊の鉢植えなんて、見たことも聞いたこともないよ。

 だいたいどうして羊が鉢に植えられているんだ?

 おれたちはみんなおかあさんの羊から生まれて来たんだよ。

 羊が木になるなんて、あるわけないじゃないか」

「でも、ほんとうなんだよ」

「それならおまえさんもおかあさんからじゃなく木のまたから生まれたっていうのかい?」

「ああ、そうだよ」

 白い羊は静かに話し始めました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る