第3話
あくる日、白い羊の八百屋を除いた黒い羊は驚きました。
八百屋の店先には、よく実った新鮮な野菜がぎっしり並んでいたからです。
「そんなはずはない。
昨日の晩、たしかに畑のほとんどの野菜をぬすんだのに。
これはいったい、どうしたことだろう」
黒い羊はふと、昨日盗んだとうもろこしとかぼちゃがいつもの味ではなかったことを思い出しました。
何か秘密があるんだ、と気がつきました。
その秘密を必ず突き止めてやるぞ、と心に誓ったのです。
それから何日も何日も、黒い羊はまるで刑事か探偵のように白い羊の店に張り込みました。
美味しい野菜の秘密を暴くために、雨の日も風の日も見張り続け、ついにある晩、とり入れがすんで何もなくなった畑に、白い羊が羊の巻き毛をまくのを見たのです。
「あのうまい野菜は、たねや苗からではなく白い羊の毛からできていたのかー。
そうなると困ったぞ。盗むことが出来ないじゃないか。
まさか白い羊を殴って気絶させて、その間に毛を刈るなんて……。
いいや、まさにそれをやっちまおうか!」
その晩、とっぷり日が暮れると、黒い羊は白い羊の家をカーテンのすきまからそっと覗きました。
白い羊はぐっすりと寝入っています。
黒い羊は家の鍵を器用に開けると、中へ入り、寝室に忍び込み、細くさした月明りをたよりにバリカンをかまえました。
と、ベッドの傍らに、何とも奇妙なものが置いてあったのです。
それは大きな鉢植えで、緑の葉がのびのびと育っているのがわかりました。
しかし、そこに実っていたもの、それは……
それはまだとても若い、こどもと言ってもいいほど若い白い羊だったのです。
若い羊は気がついたのか、眠っていた目をぱっちり開けて黒い羊を見つめました。
空気の澄んだ夜のような底深い目でした。
「なんてこった。
羊の鉢植えなんて、今までだれからも聞いたことすらなかったが……。
しかし、これは手間が省けたぞ。
こいつを丸ごと盗んじまえばいいんだからな」
黒い羊は、大きな白い羊が目を覚まさないように静かに鉢を抱えると、そうっと家を出ていきました。
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