春のお茶会
紫堂文緒(旧・中村文音)
第1話
木枯らしの吹く寒い冬の日、小さな家の小さな部屋で双子の女の子がストーブに石炭をくべておりました。
二人は寒くないように毛糸で編んだ厚いワンピースを着ていました。
焦げ茶色の、お揃いのをね。
そしてその上に胸当て付きの白いエプロンをかけていました。
違っていたのは、長い髪を垂らした頭のてっぺんに、ひとりはえんじ色のリボンを、ひとりは深緑色のリボンをつけていたことです。
部屋の大きな窓には、冷たい外の空気が入らないように紅茶色のビロードのカーテンがしっかりとかけられていて、その内側におよめさんのベールのような白いレースのカーテンがふわりと揺れていました。
こうすると、二枚のカーテンが互いのすき間をふさぎ合うのとカーテン同士の間に空気が入って逃げないのとで、部屋がとても暖かくなるのです。
おまけに二人の使っているストーブは、旧かったけれどよく磨かれて真っ黒でぴかぴかに光っていましたし、とても頑丈に造られていました。
手入れも十分にされていたので、かんかんにとてもよく燃えました。
ストーブの上にはやかんが乗っていて、勇ましく走る汽車のようにしゅんしゅん湯気を立てていました。
そのために、窓の外は木枯らしが吹きすさんでいても、部屋の中は暖かく安心でした。
カーテンと同じ紅茶色のテーブルクロスをかけた大きな木のテーブルについて、ふたりは本を読んだりおしゃべりをしたりしながら春の来るのを待っていたのです。
と、そのとき。
表の扉をとんとんと叩くものがありました。
力の強いひとが、気をつけてそっと叩いている音です。
「誰かしら?」
ふたごのひとりが扉を開けてみると、真っ黒い大きな熊がのっそりと立っていました。
熊ははなをぐすんぐすんいわせながら言いました。
「冬ごもりをしていたら、突然、穴の中に冷たあい風が一筋、吹きこんできてねえ…。
そうしたら、なんだかぞくぞくしてきて眠れなくなってしまってねえ。
どうやら風邪をひいたらしいんだよ。
すまないが、ちょっと火にあたらせてもらえないかねえ」
「まあ、それは大変。
すぐに入ってくださいな」
熊はほっとしたような顔をして部屋に入ってきました。
「どうぞストーブにあたってくださいな」
「今、熱いお茶をいれますからね」
「そりゃあ、ありがたい。
そうだ、お礼にはちみつをひと瓶、持ってきたんだよ。
これをお茶にたっぷり入れてくれないかね」
ふたごはやかんのお湯でお茶をいれると、大きなカップに注ぎました。
お砂糖の代わりにはちみつを入れて、よくかき混ぜました。
熊はふうふう吹きながら、ゆっくりとお茶を飲みました。
「ああ、熱い。ああ、甘い。
ありがとう。体が温まるよ。生き返ったようだ。
これで風邪もふっとぶだろう」
ふたごははちみつのふたをしっかり閉めると、大切に戸棚のガラス戸の中にしまいました。
しばらくすると、とんとんとん、とんとんとん、と軽くせわしない音で、また誰かが扉を叩きました。
「はいはい、いま、開けるわ」
「そんなに叩かなくても、大丈夫よ」
ふたごは扉を開けました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます